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閑話・船上パーティの後で~アン編~



 クルーエル族の住む地下都市……代々親や祖父母の名を受け継ぐ風習があり、血縁間の繋がりが深いクルーエル族は、仲間意識も強く……パーティから帰ってきたアンを、組合員やその家族総出で出迎えていた。

 さもありなん、集まった多くの者はアンが貴族のパーティに招待を受けたと認識しており、パーティに身に着けていく装飾品なども持ち寄って、一番いいものを貸し出していた。


「おかえりなさい、アンさん。パーティはどうでした?」

「ただいま戻りました……凄かったです。いや、本当に凄かったです」

「へぇ、うちの祖父が昔男爵家のパーティに招かれたときは、そこまで飛び抜けて豪華絢爛な感じじゃなかったって言ってましたけど、爵位とかでも違うんでしょうね」

「……そうですね。己の想定の甘さというのを痛感しました。世の中には、私の常識など及ばない方や天上ともいえる権威を持つ方が存在しているのだと……」

「あ、あの、組合長? 大丈夫ですか?」


 最初に話しかけてきた同じフライングボードのチーム、ブラックマスカットのメンバーであるふたりと会話をするが、アンの票所はどこか疲れている様子だった。

 それも当然だろう。ひとりが口にしていたように、一般人である彼女たちにとっては男爵家のパーティに呼ばれることすら極めて珍しいと言えるものであり、それを遥かに凌駕する者たちが大集結するパーティなど、もはや想像することもできないレベルといえる。


「いや、本当に終始圧倒されました……ですが、大きな収穫もありました。皆にとっても、とてもいい話です」

「おっ? もしかして、貴族様からお仕事の依頼とか入りましたか?」

「それなら嬉しいですね。ここのところ小さい仕事しか受けられてないですし……」


 明るい表情に変わりながら告げるアンの言葉を聞いて、ふたりだけでなく集まっていた組合の面々も表情を明るくする。

 元々、そういった貴族のパーティに招待されるにあたり、もしかしたら仕事を取れるかもという期待はアンだけでなく組合員たちにもあり、アンの表情からいい仕事を貰えたのだと察して喜んでいた。


「なんと! あの、セーディッチ魔法具商会から専属契約の話を貰ったんです!」

「「……」」

「……え? あ、あれ?」


 直後、周囲から音が消えた。盛り上がっていたはずの空気が、一瞬で氷点下まで下がったかのような雰囲気を感じアンが戸惑った表情を浮かべていると、アンの前にいたひとりが声を上げた。


「誰かぁ! アンさん、思った以上に疲れているみたいなので休める場所の準備を!!」

「ウチが近いから、いったんそこで休ませて……念のため、お医者さんも呼んで、あとあと、リラックスできる飲み物とか……」

「え? いや、ちがっ……」

「おいお前、応急処置とか出来たよな?」

「いや、出来るが怪我とかに関してだけだから、精神的なやつは……」

「い、いや、頭がおかしくなったとかじゃなくて……」

「ほら、アンタ! アンちゃんが疲れてるんだから、甘いもののひとつでも持ってきな!」

「おう! えっと、アン嬢ちゃんの好物はなんだったかなぁ……」


 今度は沈黙から一変して、ざわざわと慌てた雰囲気に変わる。そう、アンが貴族のパーティに参加したことで、精神的に極度に疲労して妄言を口にしていると、そう認識したからだ。

 だが、それも無理はないだろう。パーティから帰ってきたら、世界トップの魔法具商会から専属契約の話を貰ってきたなどといわれて、すぐに信じれるわけもない。


「え、えぇ、ちょっと、皆!? 嘘じゃなくて、本当に……」

「組合長、落ち着いてください。それはたぶん夢です!」

「そうですよ、もしくは完全に騙されてますって! そんな話があるわけないじゃないですか……」

「あ、ええっと、その……あっ、そ、そうだ! これ!! パーティで貰いました!!」


 明らかにアンの頭がおかしくなったか、詐欺に引っかかったかという方向に向かいつつある流れを止めるべく、アンはビンゴゲームで貰った景品のマジックボックスを高らかに掲げた。

 すると、周囲の反応は三度変化した。クルーエル族は採掘を得意とする種族であり、1級の技術を持つ者などもいる。そんな者たちが、掲げられた黒い魔水晶が本物であるかどうかの判断を間違うはずもない。


「……え? ア、アンさん……それ、純度90%以上の……しかも、そんなサイズ……白金貨20枚は越えるんじゃ……」

「も、貰った!? そんな凄いものを? じゃ、じゃあ本当に……」

「本当です! 皆が想像している100倍以上凄いパーティだったんです! 完全にカイトさんのおかげですけど、セーディッチ魔法具商会の魔水晶部門特別顧問のトーレ様を紹介していただきましたし、名刺ももらいました!」


 そう言ってアンが掲げた名刺を見て、ようやく先程のアンの話が冗談や詐欺ではないと理解したのか、集まっていた者たちの間に再度の沈黙が流れる。

 そして少しの後に、割れんばかりの歓声が響き渡った。


「す、凄いじゃないですか、アンさん!? い、いい、いままでの仕事とは比べ物にならないレベルですよ!?」

「も、もしかして、給料もかなり期待できるんじゃ……やっと、古くなった採掘道具の新調が……」


 先程までとは打って変わって、明らかに喜んだ様子で次々とアンに話しかけてくる組合員たちを見て、アンも苦笑を浮かべつつセーディッチ魔法具商会との専属契約に関する詳細を説明した。




シリアス先輩「パーティに行くアンを組合総出で送りだしたら、世界一の商会と専属契約の話を取ったって言いながら帰ってきた……そりゃ、頭がおかしくなったって思われるわな……」

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― 新着の感想 ―
果てしない胃痛とともに、それ以上の縁や利益を振りまく主人公ェ…w
 アンさんの気疲れした状態で帰ってきて大丈夫なのかと心配していたらセーディッチ魔法具商会から専属契約を貰ったと言ったら、頭がおかしくなったのだと思うのは必然だねw  あぁ、黒色の魔水晶で作られたマジ…
みんな、とてもやさしい。 まあ、確かに最初の状態見ると精神的に疲れてるように思われてたみたいだからなぁ。その後で言っちゃったからそっちに受け取られるだろうなこれは。 というかアンさん、最初に名刺見…
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