閑話・船上パーティの後で~グリン編~
時は遡り快人による船上パーティが行われた翌日。快人の友人としてパーティに参加したスカーレットブルーのリーダーであるグリンは、同僚であり同じチームのメンバーでもあるふたりに船上パーティのビンゴ大会で手に入れたネックレスを見せていた。
「はわわわ、グ、グリンさん……こ、この特徴的な輝きはまさか……」
「ええ、その通り……ミッドナイトクリスタルのネックレスですわ」
「ほ、本物なんですか? 私たち、展覧会とかで見たことがあるだけですし、偽物という可能性は……」
購入するとなればどれだけの金額になるか、一般人である三人には想像もつかない最高級の宝石を使った美しいネックレス。誇らしげに見せるグリンに対し、ふたりは羨望と戦慄の混ざったような表情で問いかける。
「鑑定書もありますわ」
「そ、そんな、ズルいじゃないですか、グリンちゃん!? ひとりだけこんな……一体会場でどれだけの高位貴族と知り合ってきたんですか!?」
「いえ、むしろこんなプレゼントをもらうということは……もしかして、グリンさん既に玉の輿を……」
グリンと同じく社交界に憧れの強いふたりは、ネックレスを非常に羨ましがり、そんな視線を受けてグリンはとても満足げな表情を浮かべていた。
とはいえ誤解もあるので、その部分に関しては訂正すべく口を開いた。
「……いえ、これはビンゴ……えっと、パーティのミニイベントの景品として貰ったものですわ」
「こ、こんなクラスの優勝賞品が出るミニイベントだったんですか!?」
「ああいえ、優勝賞品ではなく数多あった景品のひとつといいますか……なんなら、私がビンゴになったのはかなり後の方だったので、順位で言えば下の方です」
「嘘でしょ……こんなランクの景品がゴロゴロってそんな……」
「一言いうのであれば……ミヤマさん、ヤバいぐらいにお金持ちでしたわ。どのぐらいかというと、どちらかといえばグイグイ行くタイプの私が、完全に怯えて尻込みするぐらいには凄まじいパーティでした」
「「……」」
どこか戦慄したような表情で告げるグリンの言葉を聞き、ふたりは驚いた表情で顔を見合わせる。ふたりもグリンの性格は知っており、押しが強く人一倍社交界への憧れも強いことは知っていた。
実際パーティに行く前は、貴族の知り合いを作ってみせると意気込んでいたのだが、そんなグリンが尻込みするレベルの豪華なパーティというのはふたりにはもはや想像すらできないレベルだった。
「ですが! しっかりと成果は得てきました。なんと、ミヤマさんの紹介で……リリア・アルベルト公爵閣下と知り合ってきましたわ!」
「なっ!? あ、あの、いま最も勢いのある貴族ランキング一位の!?」
「私たちの憧れの大貴族じゃないですか……」
いま最も勢いのある貴族ランキングは、アンや快人にはサッパリ分からないものだったが、ふたりはグリンと一緒にランキングを作った張本人なので当然知っている。
「そして、またの機会に小規模のパーティなどに連れて行ってもらえることになりましたわ」
「そ、そんなぁ……う、羨ましいぃ」
「グ、グリンちゃんだけそんな……私も、打ち上げでしっかりあの人と話しておけば……」
憧れの社交界デビューの取っ掛かりを得ているグリンに対し、ふたりが心底羨まし気な目を向けるのも無理はない。そんなふたりに対して、グリンはふっと笑みを浮かべて口を開く。
「……おふたりとも、安心してください。まさか、私がそのことやネックレスを自慢するためだけにふたりを呼んだとお思いですか?」
「はい。完全にグリンさんの自慢を聞くだけだと思ってました」
「うん。グリンちゃんそういうとこあるなって……」
「……」
ふたりからの「そんなことはない」という返事を想定していたグリンは、躊躇なく頷くふたりを見てなんとも言えない表情で頬を引きつらせていた。
「…………おふたりも連れて行けるようにお願いして、許可を貰えてたのですが……どうやら不要だったようですわね!!」
「ああ、嘘! 嘘です、グリンさん! 私たちはグリンさんのことを信頼してましたよ!」
「ええ、グリンちゃんはいつも私たちを気遣ってくれる素晴らしいリーダーだって、そう思ってますよ!」
グリンの言葉を聞いていっそ清々しいほどに掌を返してきたふたりに対して、グリンは文句を言いたそうな表情を浮かべていたが……『自分も逆の立場なら絶対同じ反応をする』という思いがあり、いまいち文句も言い辛かった。
シリアス先輩「……このモブふたりも再登場したら名前がついて、容赦ない胃痛ブロー喰らいそう……」