デート計画④
友好都市ヒカリにある水原香織の店である水蓮。開店前の時間にやってきたオリビアにお茶を出してから、香織は口を開く。
「それで、どうでした?」
今回の要件は、以前に相談に乗った快人とのデートに関するものだと察していた。前回手紙で快人に伝えると言っていたので、タイミング的に考えてその返事が来たので報告だろうと推測していた。
その予想はおおむね正解ではある……致命的な想定外を除けば……。
「ええ、無事にミヤマカイト様に承認をいただきました」
「おめでとうございます! いろいろ頑張って考えた甲斐がありますね」
「貴女にも改めて感謝を……それで、今回は日程の相談なのですが……ミズハラカオリ、来月の定休日の中で都合のよい日はいつですか? 慈悲深いミヤマカイト様は、貴女の予定に合わせてくださると仰っています」
「………………」
オリビアの言葉を聞いて、香織は時が止まったかのように硬直した。人間あまりにも想定外なことが起こると、混乱よりも先に思考が停止するものである。
そのまま数秒の時が流れ、ようやく再起動した香織の思考が回り始め、表情が青ざめていく。
「……あ、あれぇ? なんか、私のお腹がキリキリと危険を訴えてきてるんですけど……お、おかしいですよね? この場合において、私の日程的な都合が関係してくる要素なんてないはずなのに……嫌な予感がする。本当に嫌な予感が……あ、あの、オリビア様? なぜ私の予定を……」
「貴女も一緒にデートを行うのですから必然です」
「おうふっ……」
なぜそんなことになったのかはサッパリわからなかったが、ハッキリしている事実の部分だけでも眩暈がする思いだった。
「えと、その……か、確認させてください! オリビア様と快人くんのデートの計画を立ててたんですよね? オリビア様と快人くんのふたりっきりでのデートじゃないんですか?」
「当初はその想定でした。ですが、ミズハラカオリが幾度も羨むような言葉を繰り返していたのは耳にしましたし、私も様々な助言をしてくれた貴女には感謝しています。であれば、礼も兼ねてミズハラカオリの同行に関してミヤマカイト様に相談をしたところ、快く許可をしてくださいました。さすが、ミヤマカイト様の懐の広さは素晴らしい限りです」
「……」
無意識のうちに香織は片手でお腹を押さえ、遠い目で天井を見上げた。快人と知り合ってから爆速で洗練され、磨き抜かれた胃痛の姿勢である。
(……確かに、羨ましいとかは口にした。でもそれは、あくまで私に訪れなかった甘い青春時代に対しての話であって、オリビア様と快人くんのデートに割り込みたいだとか、そんなのじゃないんですけどぉぉぉ!?)
心の中で悲鳴を上げるが、それを口にするわけにはいかない、いくら親しくしているとはいえ、立場を鑑みればオリビアが圧倒的に格上であり、100%の善意からきたであろうその提案を拒否することなどできない。
オリビアがそう決めて、快人がすでに了承の意を返している以上、もはや拒否は不可能だ。なにより、快人への信仰心が極まっているオリビアの前で、どのような形であろうとも快人の気遣いを拒否するなど……考えるだけでも恐ろしい。
故にもう既に、香織の参加はほぼ確定事項であり、逃れるすべはない。
「……あの……その……一応聞きたいんですが、私も参加することになると、私とオリビア様の女ふたりに対して、男が快人くんひとりだけって形になりますが、その辺は……」
「うん? ごく一般的なデートの形式では?」
「そうだった!? この世界だとよくあるんだったぁぁぁ!?」
快人とのデートに香織が割り込んだりすることに関して、オリビア的には問題ないのかと、その辺りから微小な抵抗を試みた香織だったが……この世界では一夫多妻が常識であり、男性が複数人の女性と同時にデートするのは、別に珍しい形式ではなかった。
「……えっと……じゃあ……この日で……」
「分かりました。ミヤマカイト様にお伝えしておきます」
逃れられないことを悟った香織は、遠い目をしつつ日程の希望を伝えた。今度服を買いに行ったり、紙を切りに行ったりしようかなぁと、そんなことを考えながら乾いた笑みを浮かべていた。
シリアス先輩「さすがの胃痛の超新星……」
マキナ「愛しい我が子と我が子のデート!? 私得展開だよ!! 見てるだけでヒーリング成分たっぷりの尊い光景になるのは間違いないね……オリビア邪魔だけど……まぁ、愛しい我が子をしっかり信仰してるし、大目に見よう」