デート計画③
香織が踏んだ墓穴には両者ともに気付かないままで、デート計画の話は進んでいく。
「夕方は、景色の綺麗な場所……できれば高台が望ましいとのことですよね?」
「ですね。こう、綺麗な夕日が見える場所で並んで沈む夕日を見るんですよ……いいなぁ……私もそんな青春を送りたかった」
「うん? これから送ればよいのでは?」
「ああいや、青春はもっと短く……いや、えっと……この辺説明が難しいのでやめときましょう」
香織の感覚としては青春時代というのは、10代あたりのことを指すのだが、この世界には長命種も多く……オリビアも1000歳を超えており、その感覚を説明するのは非常に難しかった。
というより、長命種から見れば香織程度の年齢は子供といっていいレベルではあるが、人間としての感覚が強い香織としては自分は三十路手前でそこそこの年齢という認識なので、どうにもその辺りに関しては認識が噛み合わない。
「と、ともかく景色のいい場所で沈む夕日を眺めていいムードになって、そのあとはちょっと高めのレストランでふたりで食事をするんですよ。夜景とかが見えるとなおいいですね」
「そうですね、ミヤマカイト様の食事に対して安価な店を選ぶのは不敬ですが、高級すぎるものも好まぬと聞いていますし、少し高級ぐらいが適切ですね」
例によってどちらも恋愛に関しては素人であるため、定番を手堅く抑えたデートプランにはなっていたが、それでも大まかな流れは決定した。
あとは予約する店などの選定が必要であり、香織とオリビアは様々な雑誌を手に話し合いを進めていった。
よく晴れた日朝、いつも通り手紙の仕分けを行ってくれたアニマから受け取った手紙の中に、オリビアさんからの手紙があった。
なんかすごい分厚さだったので、本でも入ってるのかと思って取り出してみると100枚はあろうかという手紙が入っていた。
そのあまりの量に圧倒されつつもとりあえず手紙を読み始めてみると、最初に突然手紙を贈ったことに対する謝罪と、手紙を受け取ってくれたことに関する感謝で……1枚が終了した。
そしてそこから先は、ひたすら俺に関する称賛がこれでもかというほど書かれており、めくってもめくっても俺を絶賛している内容ばかりで、本題にまったく到達できない。
なんというか、手紙ではあるがこの空気感には覚えがある。オリビアさんがテンパってる時に陥る褒め殺し状態というか、そんな雰囲気だった。ということは、かなり緊張して手紙を書いたということだろうか?
よく分からずそのまま称賛の文は流し読みしつつ、本題の書かれている紙を探すと……全体の半分ほどを過ぎたあたりで、ようやくそれらしいものを発見した。
『……つきましては、この度可能であれば、ミヤマカイト様とデートを行いたく思っております。もちろんミヤマカイト様のご都合もありますので無理にとは申しませんし、日程などもミヤマカイト様のご都合に合わせます。シャローヴァナル様よりもたらされた試練の一角でもあり、同時にこの機会にミヤマカイト様への日頃の深い感謝の思いを多少なりとも形にできれば……』
その後も延々と文は続いているが、とりあえず本題は分かった。シロさんの指示で俺とデートをすることを希望しているらしい。
う~ん……これって、もしかしてあれか? ハイドラ王国の建国記念祭の時にシロさんとオリビアさんがふたりで話していたことに関連しそうな気がする。なんならオリビアさんは真面目過ぎるぐらい真面目なので、シロさん的には俺と一緒にどこかに出かけてみればいい的なアドバイスをしたつもりが、デートと解釈した可能性もある。
しかしまぁ……建国記念祭の時の話だとすると、だいぶ間空いたなぁ……オリビアさんの性格を考えると、いろいろ考えたり勉強していたのかもしれない。
まぁ、なんにせよ一緒に出掛けるのは問題ない……おや?
『また、今回のデートにミズハラカオリも参加を希望しておりまして、私としましては幾度も助言をしてくれた彼女の願いを叶えたいと思っているので、ミヤマカイト様さえよろしければ、ミズハラカオリの同行も許可してはいただけないでしょうか?』
香織さんも一緒にデート? やっぱこれ、三人で遊びに行こう的な感じの誘いっぽい気がする。まぁ、でもそれに関しても全然問題はない。香織さんとオリビアさんと三人で遊びに行くというのは、結構楽しそうな気がするし、了承の返事をしておこう。
……それはそれとして、まだ半分ぐらい手紙残ってるんだけど……残りはなんだ?
本題は終わったはずなのにまだ大量に残っている手紙に疑問を抱きつつ紙をめくると……そこから先は俺が手紙を読んだことに対する感謝などの言葉が、これでもかというほど長々と記されていた。
シリアス先輩「香織、胃痛の始まりである……実際これ、快人の返事を受け取った後、オリビアから三人でデートすることを聞かされた時の香織の心境やいかに……」