デート計画①
友好都市ヒカリにある異世界料理店水蓮。今日は定休日なのだが、店内には香織とオリビアの姿があった。正しくはオリビアが香織を訪ねて来た形であり、香織はお茶を用意しながら口を開く。
「それで、オリビア様……ついに、完成したんですね?」
「ええ、ミズハラカオリにはずいぶんたくさんの助言をいただきまして、心より感謝しています。おかげで、ミヤマカイト様をお誘いするデートの計画もほぼ完成といっていい状態になりました。とはいえ、まだ細部が詰め切れてない気もしており、再度アドバイスを貰えればと……」
「そうですか、短いようでかなり長かったというか、普通に滅茶苦茶長かったというか……まぁ、いろいろありましたが形になったようなら私もアドバイスをしたかいがありますよ」
最初にオリビアから快人とのデートについて相談されてから、デートプランが完成するまでにかなりの時間がかかった。もちろんそれは、恋愛経験のない者同士が想像でデートプランを作っていたから……ではなく、主にオリビアの真面目過ぎる性格が問題だった。
最初は細かな会話内容まで計画しようと膨大な枚数を作り出そうとして香織がダメ出しをして、次は書物などで得たデート内容を全部盛りに盛った結果、半月ほどかかるデートプランになり再度香織がダメ出しをしてといった感じで紆余曲折ありつつも話し合い、最終的に日帰りで完結できるデートプランをという形で落ち着いた。
「こちらが詳細です」
「……おかしいですよね? 私の過去のアドバイスがちゃんと生かされてるなら、こんな辞書みたいな太さの書類が出てくるはずないんですけど……あ、あの、オリビア様? デートは日帰りで、デートプランは詰めすぎずに余裕をもって作ろうって、そういう話になりましたよね?」
「その通りです。ミズハラカオリの懸念はある程度理解できますが、どうか安心してください。これは、全てデート当日の計画というわけではありません」
「……う、うん? どういうことですか?」
オリビアがテーブルの上に出した、推定で500枚は余裕で越えるであろう書類を見て困惑した表情を浮かべていた香織だが、続けられたオリビアの言葉に意味が分からずに首をかしげる。
するとオリビアはどこか誇らしげに見える表情で、大量の書類について説明を始めた。
「まず、デートの10日前より行う予定の、デートをしてくださるミヤマカイト様の慈悲深さに対する感謝の祈り、ミヤマカイト様がこの世界に来てくださったことに関する感謝の祈り、ミヤマカイト様が世界に存在していることに対する感謝の祈り、世界を創造してくださったシャローヴァナル様に対する感謝の祈り……祈りの内容もすべて細かく考え、祈りの儀の所作も正確に定めました。これに関してが258枚です」
「…………あ、えっと……はい」
「そして、デートが終わった翌日から行う、デートに関する反省、私のために時間を使ってくださったミヤマカイト様の慈悲深さへの感謝の祈り、ミヤマカイト様のお傍で一日過ごさせていただいたことに関する感謝の祈り、今後ミヤマカイト様が進んでいく未来に関しての祝福の祈り、ミヤマカイト様のありとあらゆる行動や所作への感謝の祈り、改めて世界を創造してくださったシャローヴァナル様への感謝の祈り、今回の試練を与えてくださったシャローヴァナル様のお導きへの感謝の祈り……こちらが396枚です」
「……信仰心ガチるとこうなっちゃうのかぁ……怖いなぁ……え、えっと、とりあえず、前後の祈りとかはオリビア様にお任せしますので、当日のやつだけ話し合いましょう。当日のプランは何枚ですか?」
「2枚ですね」
「……対比がおかしすぎて眩暈がしそうです」
デート前の祈り258枚、デート当日の計画2枚、デート後の祈り396枚……計656枚の計画書。それに対して香織は「当日の分の2枚だけ持ってきてくれればよかったのに」と思いつつも口には出さず、なんとも言えない引きつった笑みを浮かべていた。
シリアス先輩「……狂神的には、オリビアはどうよ?」
マキナ「分かってる子だよね。私は高く評価してるよ。愛しい我が子に対しては絶大な感謝の念を持って接するべきって、もの凄く基本なことだけど、その基本をしっかり実行してるのは偉いと思うね」