新店舗では㉖
リリアさんの寝室は新鮮ではあったが、だからといってキョロキョロ見て回るのも失礼だろう。そもそもは卓上時計を置く場所の相談という話なわけだし、そこをしっかり考えよう。
「……場所を考えるとベッド脇のテーブルが無難そうではありますけど、オルゴールと一緒に置くとちょっとゴチャゴチャしますかね?」
「そうですね。それに綺麗な装飾を生かすなら、明るめの場所に置くほうがいいかもしれませんね。あの辺りの窓から日が差し込む場所だと綺麗に見えそうですが……」
「確かに、その辺りの位置がよさそうですね。でも高さ的に丁度家具が無いですし、いっそ新しくミニテーブルとか置いてその上に置くのがいいかもしれませんね」
本来は木製の時計とかに日差しが当たるのはあまりよくないのだが、ネピュラの卓上時計には状態保存の魔法がかかっているのでその辺りは問題ない。
なので、一番綺麗に見える場所を相談して、実際に時計を置いてみたりしながら考える。やはり、リリアさんが提案した場所がよさそうな感じはするので、最終的にそこにミニテーブルを置くような形で決まった。
「やはりここがよさそうですね。ありがとうございます、カイトさん。また、ミニテーブルを買って設置してみます」
「いえいえ、お役に立てたならよかったです……」
「カイトさん?」
「ああ、いえ、すみません。俺の使ってるやつより3倍ぐらい大きなクローゼットだったので、つい目が行ってしまって……やっぱ、貴族だとドレスとかいろいろあるからですかね?」
リリアさんと話している最中に、部屋の中でもひときわ大きな家具であるクローゼットが目に付いた。この中に衣服を入れているとしたら、何十着あるんだろうかとそんなことを考えていると、リリアさんが苦笑しながら口を開く。
「ああいえ、そのクローゼットの中にドレスはありませんよ。夜会などに着ていくドレスは専用の保管部屋があるので、そちらに保管していますね。さすがに数も多くて、部屋には置ききれませんからね」
「おぉ、ってことはリリアさんもたくさんドレスを持ってるんですね」
「私もいちおうは高位貴族ですし、ドレスは流行の移り変わりが激しいのでどうしても数が多くなってしまいますね。いっそ私も高位魔族の方々のように魔力で衣服を作れば楽なのですが……商会や商店との付き合いもあるので、それはそれで難しいんですよ」
「貴族もいろいろ大変なんですね」
「ふふふ、そうですね。大きな権力や財力を持つ分、相応に不自由な部分も出てくるのは致し方ないともいえますが……まぁ、例外中の例外であるカイトさんを見ていると、自由すぎるのもそれはそれで……とは思いますけどね」
「あ、あはは、確かに周りのフォローのおかげもあって、結構自由にさせてもらってます」
からかうような口調で告げるリリアさんの言葉に、俺も苦笑しながら言葉を返す。自由に好き勝手やった結果いろいろリリアさんには迷惑をかけているが、特に今回はそれを責めたりする気もない様子で、リリアさんの表情はどこか優しげだった。
「話を戻しますが……このクローゼットには、私が普段よく使う服が入ってますね。中は……こんな感じですね」
「ああ、なるほど、リリアさんが普段よくきてる服や、鍛錬とかの時に着る動きやすい服とか、その辺がクローゼットに入ってるんですね」
リリアさんがクローゼットを開けると中に入っていたのは、見覚えのある服ばかりで、日ごろよく使うものを纏めている感じだった。
「あとは、アクセサリー類ですね。さすがに貴金属や宝石が多いので衣装部屋ではなく、こちらに保管しています。このクローゼットも私にしか開けられないように魔法がかかってるんですよ。この辺りが、全部アクセサリー類ですね」
「お、おぉ……ちょっとした宝石店みたいというか、沢山ありますね……あれ? でもなんか、やけに赤みがかった茶色の宝石が多いような? リリアさんは、この宝石が好きなんですか?」
「あぇ!? あ、ええっと……それは……その……」
リリアさんが見せてくれたアクセサリー類はどれも高級感があって素晴らしい品々だったのだが、3分の1ほどが同じ宝石と思われる色合いのアクセサリーであり、明らかにその宝石を好んでいる感じだったので、今後プレゼントをする際などの参考に聞こうと思ったのだが……なぜかリリアさんは、慌てた様子で視線を動かし始めた。
心なしか顔が赤くなっているように見えるので、照れているようだが……なんでだろう?
「……えっと、その、貴族的な風習ではあるのですが……だからその……婚約者とかパートナーの色をですね……身に着けると言いますか……その……カイトさんの目の色に……似てる色合いなので……」
「あ、な、なるほど……そういうことだったんですね」
「……はい」
「……な、なんか、変に気恥ずかしいですね」
「ど、同感です」
リリアさんやや赤みのある茶色の宝石のアクセサリーを多く持っているのは、俺の目の色……つまるところ俺の色の宝石だからで、それを好んで身に着けているということを聞かされると、なんか妙に照れ臭かった。
いや、もちろん嬉しいのだがむず痒いというか……リリアさんも俺も、落ち着くまでに少々時間がかかったのは言うまでもない。
シリアス先輩「……甘酸っぱいこの雰囲気……胃が痛くなる……はっ!? 胃痛になるのは……私? つまり、私も胃痛戦士だった!?」
マキナ「……」
シリアス先輩「おい、なに待機してやがる暴食の化け物……」