新店舗では㉓
ニフティの店舗開店から十日ほどが経過し、店舗の方は非常に順調とのことで……なんとさっそく雑誌で特集を組まれたりしていた。
俺の名前は一切出てないので、その辺はたぶんアリスが手を打ってくれたのだろう。確かにこうして店舗が雑誌で紹介されるのは嬉しいが、特になにもしてない俺がオーナーとして紹介されていてもアレなので、非常に助かる。
そういえば、ニフティの店舗に一緒に行ったエリスさんからお礼の手紙と綺麗なハンカチが届いた。上品で綺麗な刺繍が施されたハンカチであり、ニフティのマークが刺繍されていて驚いたが、手紙に「素人の仕事で恐縮ですが」と書かれており、どうやらエリスさんが刺繍したハンカチらしい。
刺繍を趣味とする貴族女性はそれなりにいるらしいが、店で売っていてもおかしくない綺麗な出来なので、エリスさんの刺繍の腕はかなり高いのではないかと思う。
そしてなんというか、高級な品物とかじゃなくて、こういう手の込んだ真心の感じる品を贈ってもらえるというのは、なんというかすごく嬉しい。またなにか、お礼でもしたいところである。
「……どころで、三人はなにを?」
「主様、おはようございます! いま、イルネスさんとカナーリスさんとガラスを作る準備をしていたところです」
「おはよう、ネピュラ……ああ、前に言ってたガラス製品作りの……」
裏庭にネピュラ、イルネスさん、カナーリスさんの三人が集まっていたのでなにをしているのか尋ねてみると、ネピュラが明るい笑顔で答えてくれた。前にガラス製品とかも作ってみたい的な事を言ってた覚えがあるので、その関係だと思う。
イルネスさんとカナーリスさんとも軽く挨拶をしてから視線を動かすが、特に窯のようなものとかも無い。
「……あれ? でも、窯とかもなにもないですね。これから、カナーリスさんが作ったりするんですか?」
「そんな感じですね。作る際に有害物質とか出る場合もありますし、窯も拘ると結構なサイズになるので、亜空間にでも作ろうかって相談してたとこです。せっかくなので陶磁器の窯とかも全部まとめて亜空間に工房みたいなの作っちゃえば便利かなと思っていたところですね。たはぁ~一家に一体リフォームに便利なゴッドです!」
「設備関係が~一纏めになるのはぁ、ありがたいですねぇ。いっそ~少し広めに作ってぇ、茶の木やカカオもそちらに移してもいいかもしれませんねぇ」
カナーリスさんが基本なんでもできるので、ネピュラとイルネスさんの趣味の物作りの幅もかなり広がっているみたいでなによりである。
そのうち亜空間に大抵のものは作れる巨大工房みたいなのもできそうだが、それはそれで楽しそうではある。
「う~ん。やっぱり、指定した人だけ通れる扉を作るのが手っ取り早くていいですかね? カイト様の家の裏庭で、別にカモフラージュの建物を作る必要はありませんし……」
「それなら~やはりぃ、いま~窯を置いている場所がぁ、いいのではないでしょうかぁ?」
「そうですね。その位置が邪魔にならなくてよさそうですね」
三人とも非常に楽し気な感じで、どこか微笑ましさも感じる。ガラス製品を作るとなると、また綺麗なものが出来そうだし、木工品とかと組み合わせたりするのも面白そうではある。
まぁ、三人のことだからきっと凄いものを作ってくれるだろう。別にガラス製品とかは販売することにはならないだろうけど、ガラス作りはちょっと興味あるので作る時には見させてもらおう。
そういえば、シエンさんがガラス製品を収集してるって建国記念祭の時に行っていたし、ガラス製品が完成したらネピュラたちがいいなら、シエンさんにプレゼントするのもよさそうだ。
庭から部屋に戻り、不意に俺はマジックボックスから卓上時計の入った木箱を取り出した。エリスさんに贈ったものと、俺が自分で使ってるのを除いて、残るはこのひとつだけなのだが……これどうしようか?
忘れないうちに誰かにあげたいものだが、特に木工品が好きって人も思い浮かばない……リリアさんがいいかな? 執務机の上に置いて使ったりできそうだし……うん、リリアさんにプレゼントすることにしよう。
シリアス先輩「高級な品を贈るんじゃなく自分の手で作ったものを贈る辺り快人のことをよく分かってるというか、そういう性格だから気に入られているんだろうなエリス……まぁ、それはそれとして、せっかく胃痛回避したと思ったら、時間差で喰らいそうな最強の胃痛戦士……」