新店舗では⑰
カフェでのエリスさんとの会話は正直俺にとっても目から鱗が落ちる思いだった。本当に単純に面倒事を遠ざけていただけというか、ほとんどリリアさんやアニマとかに丸投げしていただけなのだが……言われてみれば、貴族関連だけ徹底的に避けているように見えて貴族嫌いと思われても不思議ではなかった。
いや、確かに俺は貴族のように行動する気もないし、パーティとか茶会とかに呼ばれるのは面倒だという思いが強い。少なくともリリアさんのように忙しく手紙のやりとりをしたりとかは嫌だ。
けど、別に貴族と知り合いたくないとか、交流したくないというわけではまったくない。エリスさんのように話しやすい相手とかとこうして一緒に食事したりするのは、むしろ楽しい。
でもまぁ、気が合うかどうかなんて手紙の時点とかでは分からないし、結局のところ大きく現状を変えるのは難しいと言わざるを得ない。
感応魔法の影響か、それともシロさんの祝福の効果なのかは分からないが会って話せば、基本的にはすぐわかる。
主にいい人そうで話しやすい相手、いい人なのは間違いないが話しにくい相手、いい人だが個性が強い相手って感じで、同じいい人でも差はあってエリスさんはいい人かつ話しやすいと感じる相手だ。
悪い人はに関しては、明確に悪そうな人ってのは遭遇したことないのでいまいち感覚が分かりにくいが……あ~でも、アリスが俺を攫った時に会ったフードの連中に関しては「嫌なやつ」って感じの雰囲気がしたので、アレが悪い相手の感覚なのかもしれない。
「でも、いまエリスさんと話してて思いましたけど、本当に俺って極端に貴族の知り合いは少ないかもしれませんね。他の交流の幅を考えると、結構偏ってる気もしますね」
「それは、確かに……各国の王や六王様、最高神様や創造神様と知り合いで貴族にはあまり知り合いがいないというのも、珍しいですね」
「そういえば、魔族に関しても伯爵級以上の知り合いが多くて、男爵級や子爵級の知り合いが少ないので、かなり偏ってるかもしれません」
「伯爵級以上の知り合いが多いというのは、単純に聞くだけなら羨ましく感じますね。実際にそうなると大変そうではありますが、主催した茶会などに招ける可能性があると思えば、貴族にとってそういった繋がりは財産とすら言えるかもしれませんね」
「やっぱりエリスさんも、そういう茶会とかパーティとかを主催したりすることがあるんですか?」
実際結構エリスさんの立場は珍しいというか、俺の知り合いで貴族というとリリアさん含めてほぼ当主なので貴族の子息という立場の相手は新鮮だった。
アマリエさん、カトレアさん、オーキッド辺りは貴族の子息ではあるが王族なので、またちょっと違う感じだし、自分がするかどうかはさておいて貴族の生活というには興味はある。
「ええ、父や母ほどではありませんが、時折主催することはありますね。私の場合は嫡子ですから、のちのち当主を引き継ぐときのために早い段階からコネクションを形成することも目的のひとつです。貴族にとっては横の繋がりはとても重要で、ここがしっかりしていないと後々大きな苦労をすることになりますからね」
「なるほど……」
そういえば、リリアさんも当主になったばかりの頃はコネが少なくて苦労したと言っていた覚えがある。やっぱり貴族にとって社交界というか、他者との交流や伝手は物凄く重要なのだろう。
「ちなみに、不勉強というか貴族関連のことをまったく知らなくて申し訳ないんですけど、エリスさんのハミルトン侯爵家ってどんなことをしてる貴族なんですか?」
「お父様、つまりはハミルトン侯爵は現宰相です。いちおう当家はアルクレシア帝国で四大貴族と称される程度には力が大きく歴史も古い貴族家でして、必ずしも宰相というわけではありませんが、代々なにかしらの城の要職に就いていることが多いです」
「おぉ、それは凄いですね。宰相って言うとかなり偉い役職ですよね?」
「ええ、政治関連のまとめ役と認識してもらえれば大丈夫です。あとはアルクレシア帝国が担当の際に勇者召喚の関連を取り仕切るのも宰相ですね」
「それは例えば召喚を行ったりですか?」
「ああいえ、当家が勇者召喚の実行者になることはありません。なってはいけないという決まりがあるわけではありませんが、ただでさえ大きな権力と発言力を持っていて妬みの対象となりやすいので、勇者召喚の担当国になった際などには勇者役の巡回の補助などに回りますね」
そういえばルナさんからチラッと聞いた話ではあるが、勇者召喚の実行者に高位貴族が選ばれるパターンはそんなに多くないらしい。
というのも勇者召喚の実行者に特別な処置があるわけでもない。それでも箔は付くのでやりたがる者は多いが、国王が国家内のバランスを考えて伝手の少ないものに割り振ったりするパターンが多いとのことだ。
中には高位貴族で強引に権力を使って実行者になる者も居るらしいが、そういうパターンは少な目とのことだ。
「いろいろ教えてくれてありがとうございます。いままでは貴族関係は遠ざけてた感じになってましたが、こうやって話を聞いたりすると新鮮ですね。茶会とかにもちょっとだけ興味はあるので、機会があればエリスさん主催のとかに参加してみたい気もしますね」
「ひゅっ……」
「……エリスさん?」
「……し、失礼しました。と、唐突に心臓が止まるような提案が来たもので……あ、あの、社交辞令とかではなく?」
「え? ええ、機会があれば参加してみたいな~って思いもあります」
「……じゅ、熟考いたします」
そう答えるエリスさんの顔からは、気のせいだろうか血の気が全部引いている気がした。
シリアス先輩「ああ、つまりこれはアレか、エリスは『いい人で話しやすい』に分類されてるから、快人側からやたら好意的なのか……」
???「そうっすね。第一印象とかだとクロさんやリリアさんレベルのカイトさん的最高評価ですね。ちなみにアリスちゃんは、最初に会った際の印象は『根はいい人だとは思うけどクセが強い』……分類的にはいい人だけど個性が強いってやつですね」
マキナ「私と同じ枠だよね?」
???「それに関してはマジで納得いかないので、第一印象のさらなる細分化を希望します」