新店舗では⑮
快人とエリスはカフェエリアに用意された席に座る。そしてエリスに同行していたメイドは別の席が用意してあるのでそちらに座る。
エリスの護衛であるメイドに関しては、一貫して主であるエリスの会話に加わらないというスタンスを貫いていたので、快人が気を利かせて別の席を用意してもらえるようにカナーリスに頼んでおいた。
そしてそれは正解の対応と言っていい。ルナマリアのように主であるリリア自身が親友としての気安い関係を望んでおり、アルベルト公爵家当主として活動するとき以外はほぼ対等に会話に加わることが許されている存在とは違う。
彼女は侯爵家に仕えるメイドであり、立場的にエリスと快人の会話に加わることはできない。もちろん快人が話を振れば受け答えはするが、それも必要最低限の事務的なものに留めるだろう。当然エリスと快人と同じテーブルにつくことも、一番強い権限を持つ快人が強引に押し切ったりしない限りありえないので、別の席を用意してもらえるのはメイドとしても非常に助かる思いだろう。
「……なるほど、素晴らしいですね。会話が周囲に聞こえないようにしてあるだけでなく、認識阻害の結界に近いものが張られていて周囲のテーブルに誰が座っているか分からないようになっているのですね。位の高い者が利用することもあるでしょうし、余計な騒ぎを起こさない素晴らしい配慮です」
「店を任せてる責任者の人のアイディアですね。実際利用する立場になると、俺としてもかなり気軽に利用しやすくていいですね」
「たしかに、ニフティに来店する方はカイト様を知っている者が多いでしょうから、認識阻害は重要かもしれませんね」
席について注文を終えた後で雑談を快人とエリス……先程までは内心かなり慌てていたエリスだが、認識阻害や会話が漏れないように配慮された席に座ったことで、ある程度落ち着きを取り戻していた。
快人との会話にも少し慣れてスムーズに話せるようになってきており、このまま問題なく会話とスイーツを楽しめるだろうと……快人に胃痛を与えられた者たちが聞けば「甘すぎる」とツッコミを入れたであろう考えでいた。
そして、もちろん当然の如く……エリスの儚い期待は粉々になることになった。
「あっ、エリスさん。いまのうちにこれを……今日、なんだかんだで強引に付き合わせちゃったり、七姫の人たちとの遭遇で驚かせちゃったりしたので、そのお詫びです」
「あ、いえ、そんな……むしろ私としては、カイト様と交流を持てたこともそうですが、七姫の方々と知り合えたことも非常に有益ですので、お詫びなどは不要なのですが……ですが、もうすでに用意してくださっているのでしたら、受け取らないほうが失礼ですね。カイト様の心遣いに感謝を……これは?」
エリスは少し申し訳なさそうな表情でお礼を言いつつカイトが差し出してきたカードと、小冊子のようなものを受け取って首を傾げた。
「それは、まだ先ですけどニフティで始める予定のサービスの先行権ですね。えっと、凄く簡単に説明するとその冊子にあるニフティの陶磁器類に、貴族家の家紋とかを入れることができるサービスですね。いずれ開始する予定のサービスを先行して利用できる感じで、その冊子に載ってる陶磁器類にはどれでも家紋を入れることができます。あっ、もちろん家紋じゃなくて別のマークとかでも大丈夫ですし、文字も入れれるみたいです」
「ひゅっ……」
笑顔で告げる快人の言葉を聞いて、エリスは思わず出そうになった悲鳴を全力で抑え込んだ。
(な、なな、なんてものを渡してきてるんですかカイト様ぁぁぁぁ!? 貴族というのはとても見栄を重要視するのですよ! ニフティの陶磁器は非常に有名ですし、そこに家紋を入れられれば素晴らしいのは間違いないですが……いずれ開始されるサービスとはいえ、先んじでハミルトン侯爵家がそれを所持していたら、ニフティに対して特別な伝手があるように見えますし、なんなら悪意を持って利用すれば自分たちはカイト様と懇意にしているのだと吹聴してカイト様の威を利用するなんてこともできてしまうんですよ!! いや、しませんけど!! もう少し危機感を……危機感……ああ、いえ、そうか……悪用しようとしても幻王様に消されるだけですね)
なんの気なく差し出されたプレゼントはとんでもない品であり、エリスの心の中はパニック状態に移行していた。
まぁ、実際エリスの考えている通り、仮にその権利を振りかざして快人を利用するようなことをすれば、アリスか……最悪の場合エデンが粛清に動くので、悪用される心配は無いと言えば無い。
(……ですが、その……凄いものを渡すときは、凄いものを渡す感じの態度で来てもらいたいです。いや、本当に心臓が持たないので……言えませんけど!?)
もしこの場にリリアが居たのなら、温かみを感じる表情でポンッとエリスの肩に手を置いていたことだろう。
シリアス先輩「やったねエリスちゃん、箔がつくよ! ……大丈夫? 胃に穴空いてない?」