新店舗では⑬
エリスさんと偶然知り合った後、目的地が同じということで一緒にニフティの店舗に向かい七姫の五人と遭遇。そのまま流れで一緒に店舗に入る形になってしまった。
俺個人としては、カナーリスさんに用事があっただけで店舗内で買い物とかをする気は無かったのだが、そうなってしまったものは仕方がないと考えよう。
エリスさんもいまでこそ落ち着いてはいるが、七姫の皆さんと遭遇してた時はかなり混乱してる感情が伝わってきてたし、せっかくだからお詫びになにかプレゼントというのもいいかもしれない。
しかし、エリスさんも侯爵令嬢であり大抵の商品は自力で買うことができるだろうから、どうせお詫びのプレゼントというのであればなにか珍しいものを贈りたいところではある。
う~ん、あとでカナーリスさんに相談してみようかな。
「店舗の内装とかは責任者の人に任せっきりで、俺はあまり関わってないんですが、こうしてみると結構広々した感じがしますね」
「商品ひとつひとつのスペースを十分に取ってあるのと、視覚的にも購入者の目に付きやすいような細かな工夫が随所に施されているように感じます。店舗の責任者の方はかなり優秀なのでしょうね」
店内に人は結構な数がいるが、混雑しないように入店人数を絞っていることもあって手狭には感じない。というか元々店舗自体がかなり広いのだ。カフェスペースを抜きにして考えてもかなり広く、その広さに対して商品数はそこまで多くないので、紅茶のブランドなので大きな商品とかもほぼないのでスペースを贅沢に使えるので、広々した高級感ある雰囲気を維持できているのだろう。
そんなことを考えつつ商品を眺めていると、まるで展示されているかのように飾られているティーカップのセットがあった。そこには『3セットのみ限定再販、初期型ティーカップセット』と書かれていた。
えっと、値段が1、10、100、1000……120万R!? 日本円にして1億2千万円!? いやいや、いくら高級店と言っても値段が高すぎじゃ……あれ? 完売の札が置いてある? マジで? 1億2千万で3セットすでに売れてるの? 俺、アルクレシア帝国の建国記念祭でいくらで売ったっけ……怖いので考えないことにしよう。
この初期型というのは、いわゆる初期ロット……俺がアルクレシア帝国の出店で販売したものと同じで、普通に売っている商品との違いは、ネピュラとイルネスさんが直接作成しているかどうかである。
ニフティとして普通に売っているカップなどの陶磁器は、ネピュラとイルネスさんから製法を聞いて量産体制を整えたもので、ふたりが直接作成しているのは初期ロットだけと考えると貴重なのかもしれないが……それでもこの値段は凄いな。
「あ、エリスさん。店舗の責任者と話してくるので、少しだけ外しますね」
「畏まりました。私は店内を見て回っていますので、どうぞ気にせずごゆっくり」
興味深く店内を見ていたが、とりあえず先にカナーリスさんにクロのカフェ予約について話をしておこうと思って、エリスさんに断りを入れてから移動する。
店員の人に声をかけてカナーリスさんに会いたい旨を伝えると、すぐに裏に通されて応接用であろう部屋に案内された。
「これはこれは、快人様、ようこそいらっしゃいました」
「こんにちは、カナーリスさん……家でもよかったんですが、ちょっとお願いしたいことがありまして……」
明るい声と相変わらずの無表情で出迎えてくれたカナーリスさんに事情を説明して、アルクレシア帝国とハイドラ王国の予約に関してクロと話し合った日程を伝える。
「はい。問題ありませんよ。というか、快人様なら当日突然来てもまったく問題なくOKです。たはぁ~顔パスってやつですね」
「アニマとかが優先席を使ったりするなら被らないようにと思ったんですが……」
「ああいえ、別に被ってもちょこっと空間拡張すれば席なんていくらでも増やせますし、全く問題ありませんよ」
「なるほど……じゃあ、すみませんが、その日程でお願いします」
「了解です。そういえば、今日はどうしますか? 連れの方と一緒に使うなら、カフェの席はすぐ用意できますよ?」
アッサリとクロの予約は取れ、ついでにカナーリスさんが今日の利用に関しても提案してくれた。そういえば、エリスさんはカフェ利用の方は抽選に落ちて、店舗での購入権の方が当選だったって言ってたっけ……じゃあ、カフェに招待するのもいいかもしれない。
「エリスさんの都合を確認してからになりますが、せっかくなんで利用させてください……ああそれと、実はここに来る前にちょっとトラブルというか、エリスさんを困惑させちゃって迷惑をかけたので、なにかお詫びに贈ろうかと思うんですが……いいものとかあります?」
「ふむ……あ~じゃあ、アレがいいかもですね。もう少し経ってから貴族向けに始める予定のサービスがあるんですが、それの先行権的なものを用意しますよ。これなら、後々に一般にも提供されるサービスなので変に畏縮とかさせずに、特別感も演出できるかと……」
そういってカナーリスさんが説明してくれたサービスは、なるほど確かに貴族向けというか……喜んでもらえそうな感じの内容だったので、それにすることにして、カナーリスさんにお礼を言ってからエリスさんと合流するために応接室を後にした。
シリアス先輩「見たまえ、諸君。アレが、善意で胃をぶん殴るボディーブローの悪魔の姿だ……」