新店舗では⑧
ニフティの店舗の運営はカナーリスさんに任せているし、心配なども一切していない。俺が関わったのだっていくつか意見を出した程度と、内装の細かい飾りなどをロズミエルさんとかエリーゼさんに相談して提案したぐらいだ。
しかし、そこまでガッツリかかわっていないとはいえ自分の店なわけだし……やはり繁盛のほどは気になる。クロから聞いた話だと予約抽選とかも凄い倍率という話だったし、入店人数も絞っているので大混雑というような状態でないのは分かるが、一度営業している店舗を見てみたいと思って足を運んだ。
ついでにクロと行く日の関係者席に関して問題ないかカナーリスさんに確認もするつもりだ……いや、まぁ、カナーリスさんに確認するなら家にいるからそっちに聞けばいいのだが、店舗の様子見たかったのでこっちにいるカナーリスさんに確認することにした。
そして店舗に向かう道中でバッタリと、どことなく見覚えのある人に会った。いや、会ったというかたまたま別の道から来てたところを鉢合わせたという感じだが……なんか見覚えがある気がするのだ。
青というにはやや暗め……ややウェーブがかった藍色の髪の上品な雰囲気の女性。パッと見た印象としては葵ちゃんとか陽菜ちゃんと同年代に見えるが、この世界ではあまり年齢的な意味での第一印象は当てにならない。
着ている服もドレスっぽい感じで全体的に高貴な雰囲気があって、パッと見ただけでたぶん貴族の令嬢なんだろうなぁというのは分かったが、なぜ見覚えがあると感じたのか……それは女性が付けているネックレスを見て分かった。
「あっ、もしかしてアルクレシア帝国でカップを買って行ってくれた方……ですかね?」
あの時は髪を後ろにまとめて帽子を被っていたのでいまとは雰囲気が違うが、マグナウェルさんの鱗が使われたアクセサリーの試作品を持っている人は限られるので、たぶん間違いないと思う。
まぁ、俺の方は最初の客だったので印象に残っていたが、相手からしてみれば分らないかなとも一瞬思ったが、女性はすぐに頷きながら優雅に頭を下げた。
「え、ええ、その節は大変すばらしい買い物をさせていただき感謝しております」
「覚えていてもらえたならよかったです。っと、すみません自己紹介もせずに……宮間快人と言います」
「……エリス・ディア・ハミルトンと申します。アルクレシア帝国のハミルトン侯爵家の者です。ミヤマカイト様のお噂はかねがね」
やはり貴族の令嬢だったようだ後ろのメイドの人は、主人の会話に参加する気は無い様子で、俺とエリスさんが話始めた直後から少し後方に離れて待機している。
「えっと、エリスさんって呼んでも大丈夫ですか? 俺の方も呼びやすいように読んでもらって大丈夫なので」
「光栄です。それでは、お許しいただけるのでしたらカイト様と呼ばせていただきます」
バッタリ遭遇した顔見知り……うん、いちおうは顔見知りの相手だったので、なんとなく自然に自己紹介をして軽く会話をする。
エリスさんは上品な雰囲気で、なんというかまさに貴族令嬢という雰囲気の方で……ある意味ではかなり新鮮な感じだ。
俺の知り合いだとアマリエさんとかカトレアさんに雰囲気が近いかもしれない……リリアさんは、その、あんま貴族令嬢感は薄めというか、いい意味で貴族っぽくはないので……。
快人が呑気にそんな感想を抱いているのとは対照的に、対面しているエリスの心の内は大混乱と言っていい状態だった。
(あばばばば、ま、まま、まさかこんな展開に……カイト様と自己紹介をすることになるなんて……こ、これは、大丈夫ですよね? 私の方からではなくカイト様の方から自己紹介をしてきたわけですし、こちらが自己紹介を返さないのは無礼極まりないですし、選択として間違っていないはずです。で、ですが、流石に緊張が……相手はそれこそ、創造神様に匹敵する発言力を持つお方……ま、万が一にも無礼が無いようにしなければ……)
淑女教育の賜物か、表情には鉄壁の微笑みを浮かべて入るが、世界の特異点と言える快人との遭遇に冷静でいるというのは難しい。
貴族としては快人との交流はもちろん喉から手が出るほど渇望しているものではあるが、下手に対応を誤ればバックにいるとてつもない存在達が動き出すと思うと恐縮するのも無理からぬ話だった。
なお、快人のバックにいて貴族たちが恐れる存在のひとりであるアリスは、一連のやり取りを見て「カイトさんって本当に相変わらず、意図せず胃痛を与えますねぇ」と考えつつ、エリスに若干同情していたのだが、彼女がそれを知る術はない。
シリアス先輩「でもこれ、挨拶して終わりって流れじゃないよな……てことは……名前が付いたモブ令嬢に胃がさらに痛めつけられそうだ。あっ、そういえば名前にディアって入ってるけど、皇族関係?」
???「遠縁ですが、皇族の血が入ってる感じですね。ちなみにラグナさんにミドルネームでディアってあるのは、国王になる際にシンフォニアとアルクレシアにあるので、ハイドラの国王にもあったほうがいいだろうって、当時のアルクレシア皇帝がアルクレシアのミドルネームを使ってくれればいいって言った結果名乗るようになったので、血縁は無いですが同じディアってミドルネームを持ってるわけですね。まぁ、ラグナさん的には国王止めたらディア・ハイドラって名前は外す気ですが……たぶんその日は来ないっすね」