新店舗では⑦
ニフティの店舗に関しては、快人の知り合い以外にも貴族やメイドといった者たちにも非常に大きな注目となっていた。
当然ニフティの店舗に訪れたいというものも多く、カフェだけではなく店舗での商品購入も抽選状態という形ではあった。もっとも店舗での商品購入に関しては、カフェよりも多く枠があるため比較すれば予約は取りやすい状態と言えたが……。
「お嬢様、私もメイドとして注目のニフティの店舗に足を運べるのはとても喜ばしいのですが……一緒に行くご友人とか……あっ、申し訳ありません」
「友人もいますわよ! 今回は抽選に当たったのがシンフォニア王国の店舗だったので、いきなり他国への買い物に誘うのも無礼だと考えて貴女を連れてくることにしたんですよ」
「なるほど、まぁ、確かに金銭的に問題は無くとも気軽に他国を訪れるというのは、貴族の方には難しいかもしれませんね」
「シンフォニア王国側の貴族との兼ね合いもありますからね。私は現状はただの侯爵令嬢なのでそこまでしがらみは多くないですが、お父様やお母様はなかなか大変そうですわね。私もいずれああなるんでしょうけど……」
護衛のメイドを連れてシンフォニア王国の高級店街を歩くのは、アルクレシア帝国の侯爵家の令嬢であり、かつてアルクレシア帝国の建国記念祭において後にニフティと呼ばれるようになるブランドカップを最初に購入した令嬢だった。
もちろん彼女もニフティの店舗には注目しており、三国の店舗に対して抽選申し込み運よく当選したのだが、当たったのはアルクレシア帝国の店舗ではなくシンフォニア王国の店舗だったので、こうして他国までやってきていた。
「お嬢様もニフティ関連では中々に大変では? ニフティと個人的な伝手があるのではとも疑われていますし……」
「それに関しては完全な誤解ですが、貴族というのは噂好きですからね。私がたまたま建国記念祭でミヤマカイト様からカップを購入できていて、そのあとでニフティのブランドが立ち上がったために、あの建国記念祭で販売された少数のカップは初期ロットとしてとてつもない価値になっていますからね」
「いま着けている竜王様の鱗が使われたアクセサリーも、ミヤマカイト様にいただいたんですよね? 流通している物とは異なるデザインだから、お嬢様がミヤマカイト様に気に入られて特別にいただいたとも言われていますよね?」
「そういった勘繰りは下品としか思えませんわね。実際は私はミヤマカイト様に自己紹介すらしていませんし、このアクセサリーもたまたまアクシデントがあってそのお詫びにと頂いただけですから、一切交流は無いのですが……いえ、アクセサリーは大変素晴らしい品なので愛用させてもらっていますが……」
令嬢が付けているアクセサリーは、建国記念祭の買い物の際偶然フェイトとクロノアに挟まれるような事態となった際に、快人から驚かせたお詫びとして貰ったものだ。
現在三雲商会などを通じて流通している竜王の鱗のアクセサリーより豪華なデザインになっており、特別感があるためか令嬢が快人と懇意なのではという噂も流れている。もちろん令嬢はそのたびにしっかりと否定はしていたが……。
「……今回の予約が取れた権も、変な勘繰りを招くかもしれませんね」
「その辺りはもう諦めてますよ。どんな形でも変な噂は流れるものですわ。予約が取れれば特別に融通してもらったのではと、取れなければ直接交渉ができるからあえて取らなかったのだと、どっちに転んでも足を引っ張ろうとしてくる連中はいますからね。そんなのを気にしていても仕方がありません」
「貴族社会ってのは、ドロドロしてて嫌ですねぇ」
「同感ですが、クリス皇帝の代になってからだいぶマシになってますわ」
うんざりとした様子で告げるメイドの言葉に、令嬢は苦笑を溢しつつ足を進める。もう少しでニフティの店舗に付くという場所まで来たところで、別の方向から歩いてきた人物とバッタリ会うような形になった。
「え?」
「うん?」
別にぶつかったりとかそんなわけではなく、たまたま目が合ったような状況だったのだが、令嬢の血の気は一瞬で引いて真っ青になった。
(な、なんで、ミヤマカイト様がここに!?)
そう、偶然遭遇したのは、先程話題に上がっていた快人であり、あまりの偶然に令嬢は心の中で悲鳴を上げていた。
シリアス先輩「ああ、建国記念祭でたびたび出てたモブ令嬢か……なかなかの引きの強さ、胃痛戦士の素質があるかもしれない……」