新店舗では⑤
ハイドラ王国にあるニフティの店舗には、少々変わった組み合わせのふたりが来店していた。ひとりは船上パーティの時に披露した小柄の少女の姿になっている戦王メギドであり、快人の店だからとりあえず足を運んでみるかと予約抽選に申し込んだところ、運よく当選したためたまたまその時に会っていた相手を誘ってやってきた。
「ふむ、面白うのぅ。というより、この体の視界は本当に新鮮じゃ。竜の姿の折には、このような角度で物を見ることは無いからのぅ」
「まっ、そりゃそうか……俺としては甘そうなメニューが多くてちょっとアレだが、店内の雰囲気はいいな。ハイドラ王国の国風に合わせてあるし、家具のセンスもいい」
「ふむ、ワシにはその辺りはよく分からんが、美しく整えられているとは感じるな」
もうひとりは、老紳士の姿のマグナウェルであり、見た目的にはまるで祖父と孫が来店しているようにも見えるが、年齢的にはメギドの方が年上である。
「しかし、ミヤマカイトの店とは言えお主が甘いものの多い店に足を運ぶのは珍しいな……ふむ、なんぞ他に狙いでもあるのか?」
「あ~まぁ、ちょっと興味本位だな。なんかこのニフティの店舗を任されてるやつがすげぇ強そうってのをシャルティアからチラッと聞いて、一目見てみようかと思ったんだが……表には出てきてねぇのか……」
「凄く強そう? それは戦闘能力が高いという意味か? ワシが小耳に挟んだ情報では、異世界の神に該当する存在らしいし、強大な戦闘力を有していても不思議ではないか……」
「俺が聞いた話だと元神ってことだったが……まぁ、似たようなもんか……出てこねぇかなぁ?」
「お主、まさかとは思うが喧嘩を吹っ掛ける気じゃなかろうな? 面倒事はごめんじゃぞ……」
興味津々という具合に楽し気なメギドを見て、マグナウェルはなんとも嫌そうな表情を浮かべた。メギドは昔から喧嘩っ早く、強そうな相手や気に入った相手とはとりあえず戦おうとするところがある。いきなり店内で戦いを始めるとまでは思わないが、それでも騒ぎになりそうな可能性が高いので困ったものだと……そんな風にマグナウェルが考えた直後、聞き覚えの無い声が聞こえてきた。
「たはぁ~当店指名システムとかは無いんですが、快人様の知り合いの希望とあっては応じないわけにもいかないですね。というわけで、ご要望にお応えしまして、店主兼ニフティの責任者を務めておりますカナーリスです。実質的にはアレですね。快人様の部下的なポジションです!」
「……おう、お前がそうか……メギドだ、よろしくな」
「マグナウェル・バスクス・ラルド・カーツバルドじゃ、ミヤマカイトには日ごろから世話になっている」
唐突に表れたカナーリスに、品定めをするような目を向けつつ自己紹介を返すメギドとマグナウェル……そのまま少しの間沈黙が流れた後で、メギドが軽く顎を引くように頭を下げた。
「悪いな、呼び出すみたいな形になっちまって、もう十分だ、ありがとうよ」
「いえいえ、お気になさらず。自分は奥にいますので、なにかありましたら遠慮せずにお声がけください」
メギドの言葉を受けてカナーリスは明るい声で告げた後、変わらない表情のままで一礼をして去って行った。カナーリスが完全に奥に引っ込んだのを見届けた後、マグナウェルは苦笑しつつメギドに声をかけた。
「……どうした? 喧嘩は吹っ掛けんのか?」
「はっ、分かって言ってやがるだろ……確かに俺は戦いが好きだ。もちろん格上相手の戦いも大歓迎だが、俺とアイツじゃ戦いは成立しねぇ。実力差がありすぎて気を遣わせちまうだけだ。たくっ、シャルティアの奴……分かってた上で適当なこと言いやがったな。なにがすげぇ強そうな奴だ……完全にシャローヴァナルとかと同格のクラスじゃねぇか」
「力の底がまったく見えなんだな。アレが全能級というやつか……いやはや、見上げればいくらでも上というのはいるもんじゃな」
メギドもマグナウェルも世界でも屈指の実力者であり、カナーリスの力は会っただけで即座に理解できた。少なくともメギドが戦いを挑んだとしても勝負にならず、手加減などでカナーリスに気を遣わせるだけというのは理解できたため、メギドが戦おうとすることも無かった。
「……しかし、カイトはどうやってあんな奴を従えたんだ?」
「分からん……」
ふたりの目から見ても圧倒的な能力を有する全能の神であるカナーリスが、なぜ快人に従っているのか……なぜ嬉々とした声色で「快人の部下」宣言をしていたのか、よく分からないままふたりとも首をかしげていた。
シリアス先輩「確かに、ネピュラ周りの事情を知らないと、なんで急にあのクラスの神が快人に従ってるんだって話になるのか……各国の王とかも同じようなこと思いつつも、聞けてなさそう」
???「ゴリラさんは、あとで普通にカイトさんに聞きに行きそうですけどね」