新店舗では②
ほどなくして注文の品がテーブルに運ばれてきて、それを見たクロムエイナは目を輝かせた。彼女が注文したデコレーションベビーカステラ~シンフォニア王国風~は、ベビーカステラの上半分ほどがチョコレートでコーティングされており、そこに砕いたナッツ類や小さく切ったドライフルーツなどが美しく乗せられており、そこにフルーツソースらしきものがかかっている華やかな見た目のベビーカステラだった。
さらに食べやすいように配慮されているのか、各ベビーカステラには色鮮やかな串が刺さっており、それを摘まんで食べることができるようにデザインされていた。
「……な、なるほど! こうきたか……しっかりと高級感があるデザインになってるし、それでいて食べやすい配慮もされてる。皿に窪み……そうか、ベビーカステラが転がらないように特注の皿を使ってるんだね! 細部にまで拘りを感じられるのもポイントが高いね。ベビーカステラは8個で、かかっているフルーツソースは4種類……よく見ると、それぞれデコレーションのドライフルーツやチョコレートも細かく調整してる!」
「……」
目を輝かせてデコレーションベビーカステラを観察しつつ、饒舌に見た目の評価を語るクロムエイナをアインは静かに見つめていた。
アイン自身も経験があるが、ああやって好きなものに熱中しているときに邪魔をすべきではないと考え、自分が注文した紅茶を飲んでいた。
「どれ、まずはこれをひとつ――んっ! 美味しい! これは、ベリーソースが使われてるみたいだ。甘酸っぱいベリーソースがビターなチョコレートと相性抜群だし、ナッツやドライフルーツの触感もいい。そしてベビーカステラの優しい甘さが全体をバランスよく包み込んでる。凄いなこれ、かなりの完成度だよ。ベビーカステラもデコレーションの部分を考えてあえて小さめのものを使ってるし、細かな工夫と拘りによってしっかりベビーカステラを高級感あるスイーツとして成立させてる! うん、これは絶対星10……」
出されたデコレーションベビーカステラはクロムエイナを納得させるのに十分なクオリティだったようで、クロムエイナは明らかに上機嫌な様子でひとつひとつベビーカステラを食べながらあれこれと感想を口にしていた。
星10と評価していたので、まるごと食べ歩きガイドの次の更新の際にはこの店舗も掲載するつもりなのだろうと、そんな風に考えつつアインはベビーカステラを食べ終わったクロムエイナに声をかける。
「いかがでしたか、クロム様?」
「うん、美味しかった。一皿しか注文できないのが残念だよ……というか、この完成度だとアルクレシア帝国風とハイドラ王国風も凄く気になるんだけど……けど……アイン、予約ってどんな感じだったっけ?」
「私が把握している限りでは、最短で取れても4ヶ月は先ですね」
「うわぁ……そうだよね。出遅れた……ぐぬぬ」
ニフティの店舗が超級志向なカフェだったこともあり、クロムエイナはそのうち行ければいいか程度の認識だったのだが、そこに高クオリティのベビーカステラがあるとなると話は変わってる。
いまのクロムエイナにとって、アルクレシア帝国とハイドラ王国の店舗にあるベビーカステラは気になりすぎる一品なのだが……落ち着いてから行こうと考えていたことが災いして、予約合戦に完全に出遅れてしまっていた。
「……クロム様が話せば、譲ってくれる者も居るのでは?」
「いや、アイン、それは駄目だよ。確かに、ボクがお願いすれば予約権を譲ってくれる子は結構いると思うけど、その子たちだってニフティのカフェに行きたくて予約してるわけなんだから、それを横から奪うような真似はできないよ。ボクは六王だから、ただお願いしただけのつもりが命令のように受け取られる可能性もあるから、そういう部分はしっかり配慮しないとね」
「なるほど、差し出がましいことを言いました」
「ううん、気にしないで、ボクの気持ちを考えて言ってくれたわけだし、むしろ嬉しいよ。それに予約を変わってもらったりしなくてもどうにかする方法はあるし、そっちの方から少し当たってみるつもりだから、心配はいらないよ」
穏やかに微笑みながら告げるクロムエイナには確かな余裕があり、アインは感心したような表情で頷く。さすがは己の主たるクロムエイナ……自分が思いつかないような方法や、特殊な伝手なども持っているのだろう。確かに自分が心配するような話では無かったと、そんな風に考えてたアインはそれ以上その話題には触れず、紅茶とスイーツを楽しみながら、クロムエイナと穏やかに雑談を続けた。
そして、その日の夜のことである。昼間にアインに対して、余裕ある態度で穏やかに語っていたクロムエイナは……。
「カイトくん! お願いっ!! ズルいやり方だとは思うし、反則みたいなのは重々承知してるんだけど、ボク、どうしても数ヶ月も待つなんてできなくて……な、なんとか……力を貸して……」
「え? うん? なんのこと?」
――――恥もプライドもなく、快人に泣きついていた。
シリアス先輩「……まぁ、そりゃ……そのに頼むのが一番手っ取り早いよな」
???「実際のところはほぼ名前だけって感じではありますけど、ニフティのトップはカイトさんですからね……」