新店舗では①
紅茶ブランドニフティの三国同時オープンした店舗は非常に好調だった、元々アルクレシア帝国の建国記念祭で少数販売された陶器類、特殊な伝手でのみ手に入る細工砂糖などでジワジワと知名度は広がっており、新ブランドの立ち上げて社交界においても大きな注目の的となった。
そして、アインやジュティアといった紅茶好きの間では有名な存在が知り合いに勧めていたりしたこともあり、貴族やメイドの間ではいまはニフティのブランド名を知らない者は居ないというぐらいには人気があった。
ただし、これまでは一部の商会などで商品が少数販売されるのみで、そのどれもほぼ即日完売であり手に入れられない者も多かった。
そこに来て今回ニフティが三国同時に店舗をオープンすることとなり、当然の帰結として予約などはかなりの倍率の抽選になっていて、初日に店舗に入れるだけで相当運がいいと言える状態だった。
そんなニフティの新店舗……シンフォニア王国にある店舗のカフェでは、ひとつのテーブルにクロムエイナとアインが向かい合って座っていた。
「……う~ん、凄いね。各テーブルに認識阻害の魔法に防音の魔法、周囲のテーブルに誰が座ってるか分からないようになってるし、会話も聞こえないようにしてあるんだね。プライベートな話とかもしやすいわけだ……貴族とか向けの店だし、その辺りもいろいろ考えてるんだろうね」
「ええ、それに内装もどれも超が付くほどの一級品揃い……今回抽選に当たったのは幸運でした。アルクレシア帝国とハイドラ王国の抽選は外れましたが……」
「というか、アインはカイトくんに直接頼んで商品買えるんじゃなかったっけ?」
「ええ、ですがカフェには限定メニューなどもあると聞きまして、どのようなものか気になったので……」
「なるほど、まぁ、ボクもカフェには興味あったしアインが誘ってくれてよかったよ」
アインは三国同時オープンの店舗のカフェ利用予約の抽選に申し込みを行い、シンフォニア王国の店舗でのオープン初日のカフェ利用券に当選したため、今回クロムエイナを誘って一緒に訪れていた。
「オープンから一ヵ月はカフェは予約抽選式だけど、もう全部埋まってるんだよね。その後の普通の予約も数ヶ月待ちとか……もともと注目度も高かったし、半年ぐらいは予約とるのも難しそうだね」
「そうですね。私としてはアルクレシア帝国やハイドラ王国の店舗も見て見たかったのですが、その辺りはもう少し落ち着いてからにすることにします」
「そうだね。まぁ、別に焦る必要は――――――――――え?」
「クロム様?」
アインの言葉に優し気な笑みを浮かべて手元のメニューを開いたクロムエイナだったが、直後に目を見開いて硬直した。
「……『デコレーションベビーカステラ~シンフォニア王国風~』……だって……そ、そんな……」
「ベビーカステラですか……このクラスの高級店のカフェメニューにベビーカステラがあるのは珍しいですね」
「ぼ、ボクの、リサーチ不足だった……ま、まさか、こんなメニューがあるとは……アインの言う通り、超高級店だから無意識に可能性を除外してた!? シンフォニア王国風ってことは、アルクレシアやハイドラは別のものが……いや、そもそも……」
「あの、クロム様?」
「あっ、ご、ごめんね。つい夢中に……注文しよっか」
食い入るようにメニューを見つめていたクロムエイナだったが、アインの言葉で我に返りテーブルの上の魔法具に触れて店員を呼ぶ。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「……このベビーカステラのやつって……その100皿とか頼むのは?」
「申し訳ありません。現在は可能な限り多くのお客様に料理を楽しんでいただけるように、注文の制限をつけさせていただいております。おひとり様につき5品目まで、同じ料理の重複は不可とさせていただいております。ご迷惑をおかけしますが、ご了承ください」
「あっ、そうなんだ……それじゃしかたないよね。じゃあ、このベビーカステラと……」
もちろんクロムエイナとしてはベビーカステラを大量に注文したい気持ちはあるが、店のルールを無視して強行する気はまったくなく、素直に引き下がってベビーカステラと他に数点のスイーツと紅茶を注文した。
「う~ん、いったいどんなベビーカステラが出てくるのか楽しみだなぁ」
「……」
「アイン? なにか気になることでもあるの?」
「ああ、いえ、先程の店員……メイドはとても洗練された所作の割にはメイドリックオーラが微弱で……まるで生まれたてのような雰囲気だったので、不思議に感じていました。メイドになりたてというには、あまりにも所作が美しい……生まれながらのメイドということでしょうか?」
「………………さぁ?」
真剣な表情で考えるアインに対して、クロムエイナは先程ベビーカステラ関連で盛り上がっていたこともあって文句も言いづらく、なんとも言えない表情で首を傾げた。
シリアス先輩「……やっぱ似た者主従……」