公園デート⑯
少し落ち着いたあとで、公園のベンチにイルネスさんと並んで座る。夜の公園は静かで、どこか空気も澄んでいるように感じられた。
まだ遅い時間ではないので人が来たりしても不思議ではないのだが、幸いというかなんというか相変わらず公園に他の人の姿は無く俺とイルネスさんのふたりきりだ。
そして俺の隣に座り、軽く手を握っているイルネスさんは珍しく……というか、たぶん初めて見たといえるバツの悪そうな表情で苦笑を浮かべていた。
「……申し訳ありません~そのぉ、感情を上手くコントロールできなくてぇ、お見苦しいところを~お見せしましたぁ」
「いや、本当に気にしないでください。というか、俺としてはまったく問題なかったですし……それに、普段とはちょっと違うイルネスさんを見れたのも、なんか得した気分ですよ」
気恥ずかしそうに頬を染めて謝罪してくるイルネスさんは本当に可愛らしく、今日一日でイルネスさんの新しい魅力をいくつも発見した思いである。
まぁ、そもそもイルネスさんが申し訳なさそうにしているのが、先程のキスでテンションが上がって俺の首を後ろに手を回して強くキスをしたということに関してなので、謝罪するようなことではないのだが……いや、むしろ俺としては本当に、深くイルネスさんの愛情を感じられて嬉しかったぐらいだ。
「そうですねぇ……カイト様だけじゃ無くてぇ、私自身にとっても初めてといいますかぁ、自分のことは分からないものですねぇ。感極まって~あんな風に行動してしまうとはぁ、自分でも予想していませんでしたぁ」
「でも、本当にそれだけ喜んでもらえて俺は嬉しいですし、イルネスさんの行動とかもまったく問題ないというか、むしろ嬉しかったですよ」
「本当ですかぁ? どうにも~初めてのことが多くてぇ、不安になってしまう部分はありますねぇ。お恥ずかしながらぁ、いままで~これほど誰かに対してぇ、なにかを求めた経験が無くてぇ……ですがぁ、カイト様と一緒だとぉ、ついついもっとこうしたいとかぁ、あんなこともしてみたいという気持ちが湧いてきてしまうんですぅ」
「全然いいことだと思いますよ。というか、イルネスさんがワガママって言うようなことは、俺にとって全然ワガママでもなんでもない内容のことが多いですし、そんなに気にしなくて大丈夫ですよ」
長く生きてきたからこそだろうが、イルネスさんは若干自分自身の変化に戸惑っているような感じはある。嫌がったりしているわけではなく、長く……それこそ何万年も生きてきた上で、いままで知らなかった自分の一面が出てきて困惑しているという感じだろう。
まぁ、イルネスさんは元々が控えめというか、あまり自分から要望とかを口にするタイプではないので、むしろもっと要望を出してくれた方がバランスが取れる気がする。
そんなことを考えて苦笑しつつ、少し戸惑っている様子のイルネスさんを軽く抱きしめる。
「……ぁっ……カイト様ぁ?」
「戸惑うかもしれませんが、大丈夫ですよ。イルネスさんは決して悪い変化をしてるわけじゃないですし、少なくとも俺はイルネスさんがいろいろ要望を出してくれたり、甘えたりしてくれるのが嬉しいですから……まぁ、焦らなくても大丈夫です。その辺はゆっくり慣れていけばいいです……俺も一緒にいますからね」
「……はいぃ。これは~困りましたねぇ。今日は~本当に気持ちをまったくコントロールできませんねぇ」
そう告げるイルネスさんの声は、先程までの戸惑いが強い感じではなく、むしろどこか嬉しそうな声色だった。
そしてイルネスさんは、そっと俺の背中に手を回して甘えるように抱き着いてくる。なんというか、本当に今日は可愛いイルネスさんをいっぱい見れてよかった。
普段の大人っぽくて母性に満ちた雰囲気も本当に素敵だが、先程やいまみたいに湧き上がる気持ちのままに甘えてくるような一面も凄くいいと思う。
なんにせよ俺に不都合はまったくないので、イルネスさんを抱きしめる手の力を少し強めて、そのまましばし恋人同士のふたりっきりの時間を堪能した。
シリアス先輩(霊体)「ぐあぁぁぁぁ、な、なんで霊体でもダメージが……」
???「いや、もともと肉体的ダメージとかじゃなかった気がするので、霊体になろうが意味ない気も……ところで、あのメープルシロップまみれの本体どうします? 甘い匂いがキツいのでどっか捨ててきます?」
シリアス先輩(霊体)「いや、お前がメープルシロップまみれにしたんだろうが!!」
マキナ「…………」
シリアス先輩(霊体)「……え? い、いや、まて馬鹿神……ステイ! ステイだ!! というか、それメープルシロップかかってるだけで、普通に私の体なんだけど!? 甘味に変化したりしてるわけじゃないからぁぁぁぁ!!」