公園デート⑮
心の底から嬉しそうな笑みを浮かべていたイルネスさんは、少しして首元の髪の毛をどかしつつ、俺が贈ったネックレスを身に着けてくれた。
もちろんというか、デザインは薔薇にした……薔薇になってるよね? 結構頑張って作ったし、俺の目から見ると十分薔薇なんだけど、クオリティ的にはどうなんだろうか?
「いかがでしょうかぁ?」
「よく似合ってます。イルネスさんは少し暗めの色合いの私服が多いので、ローズクォーツの薄ピンクがいいアクセントになって目を惹きますね。ただ、個人的に心配なのは……いちおう薔薇のつもりで作ったんですが、素人仕事なのでイルネスさんの目から見てどうですか? 変じゃないですか?」
「こんな素敵なアクセサリーはぁ、いままで見たことがありませんよぉ。誇張でもなんでもなく~本心からぁ、そう思いますぅ。カイト様はぁ、ご存じかもしれませんがぁ、私は~基本的にあまりアクセサリーは着けないんですぅ」
「あ~そういえば、薔薇に見える感じのリボンとかタイは着けてましたが、アクセサリーというと確かに付けてなかったですね」
イルネスさんはメイド服のエプロンドレスのリボンを薔薇のようにアレンジしていたり、首元のタイが薔薇のデザインではあるのだが、確かにアクセサリーを着けているのは見たことが無い。
イルネスさんは私服もお洒落だし、ブレスレットとかネックレスをつけていても不思議ではないのだが、少なくとも俺が見た限りでは着けていなかった。
「身に着けたいと思えるアクセサリーに巡り合ったことが無かったのがぁ、要因ですねぇ。服は~魔力で作っているのでぇ、一部はアレンジしていましたがぁ……ですがぁ、カイト様に~ネックレスを送ってもらってぇ、涙が零れてしまいそうなほど嬉しくてぇ……長く生きてきて初めてぇ、身に着けていたいと思えるアクセサリーに巡り合った思いですぅ」
「そこまで喜んでもらえると、俺としても作ったかいがありますね」
「カイト様がぁ、私もことを想って作ってくださったと考えるとぉ、胸の奥から~嬉しいという気持ちが際限なく溢れてきてぇ、困ったことに~上手く感情のコントロールができませんねぇ」
確かにイルネスさんは珍しく落ち着かない様子というか、いつもより感情の振れ幅が大きいような状態だ。それは情緒が不安定になっているとかそういうわけではなく、感極まって自分でも抑えられないほどに上がったテンションにアタフタしている感じで、俺としてはそこまで喜んでもらえるとは思っていなかったので、照れくさくもすごく嬉しい。
そんなことを考えていると、イルネスさんは若干潤んだ眼を俺の方に向けて来た。普段とは違って焦点の合った目に薄っすらと涙を浮かべ、身長の関係から見上げるような形になっており……ハッキリ言って、とてつもない可愛さというか、破壊力が半端ではない。
「……カイト様ぁ」
「は、はい」
「先ほどは~冗談で言いましたがぁ……口付けをしても~いいでしょうかぁ? いまは~そのぉ、なんと言っていいかぁ……もっと~カイト様を近くに感じたいと言いますかぁ、触れていたいと言いますかぁ、そんな気持ちでしてぇ……ワガママを言ってしまってぇ、申し訳ないと思うのですがぁ……」
「いやいや! 全然ワガママとかじゃないですし、むしろ俺として嬉しいというか……えと、まぁ、その、こっちこそなんて返せばいいか……ええっと、喜んで?」
大切な恋人に上目遣いでこう言われてNOなんていう選択肢が頭に浮かぶわけもない。いや、そもそも拒否すること自体あり得ないのだが、いまのなんというか……甘えてきてるような感じのイルネスさんは、いつもの大人っぽさとのギャップもあってとんでもない可愛さで変に慌ててしまった。
だからこそちょっと緊張しつつも、こちらを見るイルネスさんの肩に手を添え、身長差の関係から俺が少ししゃがむ形になる。
するとイルネスさんがスッと目を閉じたので、そのまま顔を近づけて唇を重ねた。しっとりと柔らかく、どことなく甘いような感触、吸い付くように触れ合う感覚がなんとも心地よい。
そう考えていると、イルネスさんの手がスッと俺の首の後ろに回され、しがみ付くようにしてそれまでより強く唇を押し付けてくる形になった。
少し驚いたが、それ以上に触れあっている唇から深い愛情が伝わってくるみたいで、どうしようもなく心地よく、イルネスさんが積極的な事も相まってそのまましばし、時間を忘れてキスを続けていた。
シリアス先輩(霊体)「……問題ない……致命傷だ」
???「……致命傷って言うか、幽体離脱してたらほぼ死んでるようなもんじゃ……というか、あの抜け殻のボディ……まぁ、メープルシロップでもかけておけばそのうち治りますかね」
シリアス先輩(霊体)「……なんで甘くデコレーションするんだよ!?」