公園デート⑩
思ったよりも部屋が豪華だったりで若干戸惑いはしたが、基本的にはイルネスさんとふたりなのであまり肩ひじを張る必要はなさそうだ。
そんなことを考えていると「失礼します」と一声をかけてから、店員がワインの書かれたリストを渡してきた。あれ? さっきのメニューリストにワインの銘柄は書かれてたような……各食事に付くワインと別に、全体を通して飲むワインもあるってことだろうか? こういう店でコース料理とか食べた経験がほぼないのでよく分からない。
そんな風に若干俺が戸惑っていると、店員の方が軽く説明を入れてくれた。
「こちらはご用意可能なワインとなっておりますので、ペアリングの変更等を希望される場合はお気軽にお申し付けください」
「わ、分かりました」
「さっそく一品目をお運びしてもよろしいでしょうか?」
「よろしくお願いします」
頭を下げて退室していく店員を見送りながら考える……えっと、いまの言葉から推測するにペアリングってのは、恐らく各料理とワインの組み合わせのことだろう。そして変更可能ってことはつまり……店側である程度料理に合うワインは決めてくれているが、それを変更することも可能で、このリストは変更可能なワインってこと……だよな? うん、きっとそうだ。
「……イルネスさんは、なにか変更の希望はありますか? 俺の方に希望は無いので、イルネスさんの希望があればその通りにしましょう」
「そうですねぇ。概ねはこのままでいいと思いますがぁ、魚料理のワインは~カイト様の好みを考えるとぉ……」
とりあえず俺はワインの種類なんてよく分からないので、イルネスさんに希望があるならそれに乗っかることにして聞いてみた。するとイルネスさんは少し考えるような表情を浮かべた後で、テーブルの上に置かれた小さな魔法具に触れる。
すると部屋のドアが開き、先程の店員が一礼して入ってきた。あぁ、この魔法具で店員を呼ぶのか……知らなかった。恥をかく前に気付けてよかった……。
「……フィオン・レフールはぁ、何年ものがありますかぁ?」
「7年、18年、45年をご用意しております」
「では~魚料理のペアリングワインを18年のものに変更してもらえますかぁ?」
「畏まりました」
凄いなイルネスさん、ワインをそうやって選ぶ姿は大人っぽくてカッコいいというか、正直憧れる。俺もあんな風にワインの年代とかを指定して注文したりしてみたいものだ。
……まぁ、別にワインが特別好きってわけでもないし、そういうのを覚えるのは難しいだろうか?
そんなことを考えつつ、店員が退出した後でイルネスさんに質問する。
「えっと、いまのフィオン・レフールでしたっけ? どんなワインなんですか?」
「爽やかな飲み口のぉ、白ワインですねぇ。この店は~年代もいいものを揃えていますねぇ」
「えっと、実は俺ワインの年代とかよく分からなくて……どういう感じなんですか?」
「一般的にオールドヴィンテージと呼ばれるのはぁ、15年以上のものですねぇ。この店はぁ、バランスよく仕入れているようですぅ」
「ふむ……そういうのってやっぱ古い方が高くて美味しいんですか?」
「一概にそうとは言えませんねぇ。確かに~年月の経過とともにカドが取れて繊細で複雑な味わいになるワインは多いですがぁ、ワインには味のピークというものもありましてぇ、そこを過ぎてしまうと~逆に味が悪くなってしまうこともありますしぃ、早い段階で飲むことに向いたワインもありますのでぇ、必ずしも古ければいいというわけではありませんよぉ」
「なるほど……」
やっぱり結構難しそうな感じだ。さっき店員が言った7年、18年、45年が、ヴィンテージに届かない若いワイン、ヴィンテージワイン、ヴィンテージの中でも年代の深いワインと三種バランスよく用意してあったというのは理解できた。
「あれ? でも、前にイルネスさんと飲んだのは三千年物って言ってたような……あっ、そういえばなんか特殊な製法なんでしたっけ?」
「はいぃ。特殊な状態保存魔法を用いてぇ、熟成を進めつつも味を劣化させないという製法がありましてぇ、それによって作られたものですねぇ。その日の湿度や温度によって~かなり細かく魔法を調整する必要があるのでぇ、なかなか出回ることのない貴重なワインになっていますぅ」
「いろいろあるんですね……う~ん、俺もイルネスさんみたいにカッコよく注文して見たかったですが、ハードルは高そうです」
「無理に~アレコレ覚える必要はありませんよぉ。いくつか~気に入った銘柄だけ覚えておいてぇ、それが店にある時などに注文する形にするなら~複雑な知識は必要ありませんよぉ」
「なるほど、それなら俺もカッコよく注文できるかもしれませんね」
「くひひ、そうですねぇ。カイト様は~いつでもカッコよくて素敵だとは思いますがぁ、より素敵な姿が見えるかもしれませんねぇ」
そう言って穏やかに笑うイルネスさんに微笑み返す。イルネスさんとは結構一緒にワインを飲む機会もあるし、ふたりで飲むときの定番とか、そんな銘柄を見つけたりしても楽しいかもしれないと……そんな風に思った。
シリアス先輩「よくない雰囲気になって来たな……こう、軽やかに惚気てる感じが非常によくない……」
マキナ「もっとガッツリいちゃつけってこと?」
シリアス先輩「違う!?」