公園デート⑦
予約当行の日にちを間違えていたことにいま気づきました。
アリスが2セット分のキャッチボールの道具を用意してくれていたこともあり、貴族らしき夫婦に渡してグローブなどを軽く説明する。
まぁ、とはいってもキャッチボールは極端に言えばボールを投げて捕るだけなので、特に難しい説明は必要なくすぐに実践で問題ない。
初めは少々戸惑っていたふたりだが、すぐに問題なくキャッチボールをできるようになっており、その表情はどこか楽しげである。
「……なるほど、これはいいですね。最近はあまり運動する機会もなかったので、こうして妻と一緒に体を動かせるのはいいものです」
「そうですわね。それに、あまり激しい運動ではないのも助かります。会話しながら行う余裕があるので、程よい感じですわね」
どうやらおふたりはキャッチボールを気に入ったらしく、どこか楽し気にボールを投げていた。貴族の人にしてみれば、こういうことをする機会自体少なそうだし新鮮なんだろう。
そんな風に考えながらキャッチボールをするふたりを見ていると、不意に手にメモのようなものが渡された。確認してみると、アリスからであり……ふむ、なるほど……。
「気に入ってもらえたようならよかったです。もしよろしければ、そのグローブとボールは差し上げますよ」
「……それは、ありがたいですが……しかし、よろしいのですか?」
「ええ、それほど高価なものではなくて野球とかで使う道具なので、マイナーですけど探せば普通に売ってますしね」
アリスのメモには「グローブとボールあげてもいいですよ」と書いてあったので、おふたりにそのままプレゼントすることにした。
高価ではないとは思うが、この世界で野球はマイナーらしいので手に入れるのはもしかするとそこそこ大変かもしれないし……。
「心よりの感謝を……もしご迷惑でなければ、名乗らせていただいても構いませんか?」
「え? ええ、もちろん」
そういえば自己紹介をしていなかった気がすると思いながら頷くと、相手の男性は深々と頭を下げて口を開く。
「私は、クラウス・スコットと申します。王都に住んでおります伯爵で、現在は王城に努めております。こちらは妻のフォルテ・スコット……もしよろしければ、夫婦ともども記憶の片隅に置いてくだされば光栄です」
「よろしくお願いします」
「宮間快人です。こちらこそ、よろしくお願いします」
「イルネスですぅ。カイト様ともども~よろしくお願いしますぅ」
貴族っぽいとは思っていたが、伯爵らしい……ある意味初めて正規の伯爵に会ったかもしれない。ドゥーカス伯爵は実際はドゥネル子爵なわけだし……というか、それ言うと男爵とか侯爵とも会ってないな。
「ミヤマ様のお噂はかねがね……そういった機会は無いかもしれませんが、もし私どもでお力になれることがあれば、いつでも言ってください」
「ありがとうございます」
「それでは、あまりおふたりを邪魔しても申し訳ないですし、我々はこれで……この度の品のお礼は後ほどささやかですが贈らさせていただきます」
俺とイルネスさんがデート中ということで気を使ってくれたのだろう、スコット伯爵夫妻は簡単な挨拶をした後で、再び深く頭を下げて移動していった。
……そして俺は、この時は想像もしていなかった。
この後しばらくして、貴族たちの間になぜかキャッチボールブームが到来し、とある雑誌の取材でスコット伯爵夫妻がブームの火付け役として紹介されており、俺が渡したグローブを「さる大変高貴なお方から頂いた宝物」と語っているインタビューを見て、驚愕することになるとは……。
シリアス先輩「まぁ、貴族側から見れば、そういう感想でも間違いはない気も……」