公園デート⑥
気を利かせてくれたであろうアリスによって用意されたグローブとボールを使って、イルネスさんとキャッチボールをしようと思ったのだが……ひとつだけ疑問に思うことがあった。
それは、なぜかグローブが4つとボールがふたつ用意されていたことだった。ボールに関してはまぁ、予備と考えれば納得もできなくもないが、グローブが4つあるのは明らかにおかしい。
まさか、アリスが数を間違えて用意したというわけでもないだろうし、アイツのことだから何か意味はあると思うのだが……いまの時点では分からない。
とりあえず、普通にイルネスさんとグローブをひとつずつ使ってキャッチボールをすることにした。
「このボールを~カイト様に向かってぇ、投げればいいのですねぇ?」
「はい。強くではなく、互いが取れるようにゆっくりと山なりの感じで……最初はある程度近めの距離でやりましょう」
「はいぃ」
キャッチボールが初めてであるイルネスさんに簡単に説明をして、キャッチボールを開始する。相手がイルネスさんだと、なんというかかなりの安心感がある。
これがもし仮に相手がシロさんだった場合は、力加減についてかなり念押しをしたと思う。なにせシロさんがほんの僅か……それこそ微かにボールに指がかかる程度だったとしても、シロさんが力加減を間違えたら、俺は即座に挽肉になっても不思議ではない。
いや、海で遊んだときとかのことを考えると、シロさんは力加減も完璧に調整してくれるってのは分かっているのだが……それでもなんかウッカリ間違えそうな怖さはある。
対してイルネスさんは、まず間違いなく力加減を間違えることは無いと確信できるので、その辺りは安心である。
(やや不満です。間違った認識を正す必要があるので、今度私ともキャッチボールをするべきです)
……いや、たぶん認識は間違ってないですよ。シロさんは力加減も完璧にこなせると理解した上で、それでもなんか不安が残るってだけで……まぁ、それはそれとして、キャッチボールをするのは問題ないですよ。また今度やりましょう。
(では今度ラブラブキャッチボールを行うということで……では、用件は終わったので失礼します)
サラッとラブラブとか付け加えてたけど、キャッチボールでラブラブするのは難易度がかなり高い気も……ま、まぁ、いいか……とりあえず今はイルネスさんとのキャッチボールだ。
「このぐらいですかねぇ?」
「ええ、いい感じですね。じゃ、返しますね」
イルネスさんはフワリと山なりの絶妙な力加減のボールを投げてくれて、それをキャッチして同じように投げ返す。
いや、もう少し早くても大丈夫ではあるのだが……グローブを使い慣れてないので、上手く取れるかが不安なので、ゆっくりした感じでやっていけたらいいなと思う。
そのまましばらくキャッチボールをしつつ、軽く雑談をする。
「なるほど~これはぁ、面白いですねぇ。軽く~体を動かしながらぁ、会話ができるので~退屈しませんねぇ。スポーツというほど動くわけでは無くてぇ、少し変わった形の雑談という印象ですぅ」
「確かに、スポーツって程動くわけじゃないですね。座って雑談するのとはまた違った感じで、俺も結構こういうのは好きで……うん?」
「おやぁ?」
軽くキャッチボールを続けていたのだが、不意に視線を感じて一度手を止めると……先程空飛ぶ絨毯に乗っていた夫婦らしき方たちが、興味深そうにこちらを見ているのが見えた。
その夫婦は、俺たちが振り向いたのを見てハッとした表情を浮かべた後で、どこか慌てた様子で頭を下げた。
「も、申し訳ありません。お邪魔をしてしまいまして……」
「ああいえ、大丈夫ですよ。なにか御用でしょうか?」
「いえ、なにをしているのかと気になって見ておりました。不快な思いをさせてしまったのなら、申し訳ない」
「全然大丈夫ですよ、気にしないでください」
どうやらキャッチボールが珍しくて見ていたようだ。イルネスさんが野球はマイナーなスポーツだと言っていたし、キャッチボールに関しても知らない人が多いのだろう。
……ふむ……あれ? ああ、そっか……だから、アリスはグローブを4つ用意してたのか……。
シリアス先輩「快人の予想通り貴族っぽい感じがするな、この夫婦……快人に対して明らかに恐縮してる感じだし、快人のことを知ってると考えるとやっぱシンフォニア王国の貴族かな?」