カフェデート①
ニフティの店舗展開の話は順調に進んでいるようだし、カナーリスさんが極めて優秀で人格的にも優れていることもあって特に俺が何かをしたりする必要は無く、任せていて問題ない状態であり非常に気が楽だ。
なので別にニフティに関わる話というわけではないのだが、ちょっと高級なカフェに行ってみたいなぁという気分は湧いてきた。仮店舗を見た時に思ったのだが、高級店街にあるカフェには行ったことが無い。
大通りとかにあるカフェには何度か行ったこともあるのだが、高級店街のカフェはまたそれとは違った雰囲気なので一度行ってみたいなぁという気持ちになった。
というわけでクロのまるごと食べ歩きガイドを見て、高級店街のカフェを選んでいるのだが……さすがにひとりで行くのは、雰囲気的にも心境的にもなんかアレなので誰かを誘っていきたいところではある。
そんな風に考えているとノックの音が聞こえ、綺麗に折りたたまれた洗濯物を持ったイルネスさんが入ってきた。
「カイト様ぁ、選択した衣類をお持ちしましたぁ」
「ありがとうございます。あっ、パーティ用の礼服だけマジックボックスにしまいますね」
「はいぃ。こちらですぅ」
よく使う衣服は部屋のクローゼットとかにしまっておくのがいいのだが、あまり使わない礼服とかはマジックボックスに入れておけば劣化もしないので安心だ。
俺の言葉を予想していたのか、イルネスさんは最初から別に分けていたパーティ用の礼服を渡してくれたので、それをマジックボックスに収納する。
そして、クローゼットに服をしまってくれているイルネスさんを見ていて、先程まで考えていたカフェのことを思い出した。
「イルネスさん、どこか直近で外出できるぐらい時間に余裕のある日ってありますか?」
「いつでも大丈夫ですよぉ。最近は~かなり手持無沙汰なのでぇ、時間的余裕はたくさんありますからねぇ」
圧倒的な仕事量を抱えるイルネスさんだが本人はまったく苦にしていない……どころか、最近はなんか以前より仕事のスピードが速くなった様子で、仕事量はむしろ増えているはずなので以前よりずっと余裕があって、ネピュラと一緒になにか作ってることが多いという状態になっている。
さすがというべきかなんというべきか、とりあえず時間的な余裕はありそうなので誘うのは問題ないだろう。
「実は高級店街にあるカフェに一度行ってみたいなぁと思って調べてたんですが、イルネスさんさえよければ一緒に行きませんか?」
「おやぁ? くひひ……これはぁ、デートのお誘いでしょうかぁ?」
「……あっ……そうですね。はい。デートの誘いです」
イルネスさんとは船上パーティの日に正式に恋人同士になったわけだし、一緒に出掛けるならデートで間違いない。
「ではぁ、是非~ご一緒させてくださいぃ」
「はい。丁度いま、どの店にしようか考えてたところなんですけど、イルネスさんに時間的余裕があるなら一緒に見ませんか?」
「はいぃ。では~お言葉に甘えてぇ……お隣に座っても~よろしいですかぁ?」
「はい」
丁度ソファーに座って本を見ていたこともあって、イルネスさんが隣座って一緒に食べ歩きガイドを見ることにした。
ちなみに今見ている食べ歩きガイドは最新バージョンであり、流石に全店舗とはいかないが、ある程度は新型の魔法具による写真も掲載されているという見やすいガイドである。
一冊の本をふたりで読むという関係上、必然的に距離は近くなりイルネスさんからは上品な香りが漂ってくる。仕事中に香水をつけたりはしていないようだが、使っているシャンプーなのかなんとなく薔薇っぽい香りのような気がする。
「イルネスさんの知ってる店とかあったりしますか?」
「そうですねぇ、この辺りの店は~雑誌などでも紹介されている有名店ですねぇ。逆にこちらの店は~完全予約制でぇ、紹介などが無ければ予約もできませんねぇ。とはいえ~カイト様であればぁ、予約なしで来店しても~席を用意してもらえるかもしれませんがぁ……こちらに行くつもりならぁ、お嬢様か~冥王様辺りに~一度紹介してもらうほうがぁ、無難ではあるかもしれませんよぉ」
「なるほど、高級店だけあってそういう紹介制みたいな店もあるんですね。正直興味本位で行ってみたいだけで、今後定期的に通おうとかそういうことを考えてるわけじゃないので、とりあえずは予約とかなしで行ける場所がいいですね」
「有名店を選ぶのが~無難かもしれませんねぇ」
「そうですね……あっ、こことかどうです? 内装に薔薇とか使われてて、イルネスさんの好きそうな雰囲気じゃないかなぁって」
「確かに~私の好む内装ですがぁ、私の好みに合わせる形で大丈夫ですかぁ?」
「はい。むしろ、イルネスさんに喜んでもらいたいというか……楽しんでもらえるのが一番嬉しいので、積極的にイルネスさんの好みは反映したいですね」
「くひひ、私は~カイト様とデートできるだけでぇ、十分すぎるほどに幸せなのですがぁ……でも~せっかくですしぃ、カイト様の優しい気遣いに甘えさせていただきますねぇ」
そんな風なやり取りをしながら肩を寄せ合い、ふたりで楽しくいく予定のカフェに付いて話し合った。
シリアス先輩「あぁぁぁ、そ、そうだった……コイツ、パーティで恋人に……ひぃぃ……」