カナーリス⑱
ハイドラ王国と時を同じくして、シンフォニア王国のアルクレシア帝国においても、カナーリスはそれぞれの王と謁見をしていた。
シンフォニア王国の王城にある謁見の間では、国王であるライズがカナーリスと会っており、その両脇には騎士団長であるレイチェルとメイド長であるベアトリーチェの姿もあった。
今日に至るまで様々な伝手を探ってみたのだが、結局カナーリスの情報は出てこず、実際こうして会ってみても見覚えは無い。
挨拶自体は滞りなく終わり、ライズは控えさせていたレイチェルとベアトリーチェに小声で話しかける。
「……どうだ?」
「わ、分からないであります。なんとも独特な雰囲気を持つ方でありまして、強いのか弱いのかも雰囲気からでは推し量れないであります」
「私もレイチェル騎士団長と同じ意見です。ただ者ではない雰囲気はあるのですが、捉えどころが無い印象ですね」
情報は無くとも快人がブランドを任せるほどの存在であるということは、相応の人物であると考え、シンフォニア王国に属する爵位級のふたりに見極めを願ったのだが……レイチェルもベアトリーチェも、難しい表情で分からないと返答していた。
結局何も分からずじまいでどうしたものかとライズが考えたタイミングで、カナーリスが口を開いた。
「国王陛下、発言の許可を頂いても?」
「ああ、なんだろうか?」
「恐らく陛下はポッと出でありながら快人様にブランドを任された自分が何者か、そこに悩んでいるのではないでしょうか?」
「その通りだ。いや、わざわざ挨拶に来てくれた相手を探るのは無礼とは重々承知なのだが、あまりにも情報が無く不安に感じてしまって……不快にさせたなら、申し訳ない」
「ああいえ、お気になさらず。確かに自分のことを調べても情報は出てこないでしょうし、国家運営を担うものとして警戒する気持ちは分かります。たはぁ~ミステリアスで申し訳ない! ああ、それで自分の情報が無い理由ですが……自分異世界から最近こちらに来たばかりでして、そもそもどれだけ調べてもこの世界に自分の情報は無いんですよ」
そう話すカナーリスの言葉を聞いて、ライズは無意識にソッと胃に手を添えた。当たり前のように語られたが、勇者召喚の時期でもないのに異世界からの来訪者であるというのがまず異例である。その上快人が関わっているとなると、嫌な予感しかしなかった。
「それで、自分の立場ですが、いちおう元世界創造の神、現在は一般人……一般人ってカウントはおかしいかもですが、ひとまず特に権力者とかではないです。う~ん、えっと……一般人的なポジションの全能級の元神的な、そんな感じですね。たはぁ~属性が多くて申し訳ない!」
「……」
ライズは遠い目で謁見の間の天井を見上げた。最愛の妹は普段こんな気分なのかと、鈍い胃の痛みをこらえつつ……全能級の神相手にどんな態度で接すればいいんだと、そんな思考から逃避するようにしばし見えないはずの青空に想いを馳せた。
そして、シンフォニア王国でそういったことが怒っているということは、同様にアルクレシア帝国でも似た状態になっているということである。
ライズと同じように方々に手を尽くしても情報を得られなかったクリスに対し、カナーリスが正体を告げて、それを聞いたクリスは頭を抱えた。
「……な、なるほど……カナーリス様は、いわば異世界の神、立場は少し違うかもしれませんがエデン様のような立ち位置の方であると……」
「そうですね。確かに彼女に近い立ち位置かもしれません。まぁ、自分の場合は元神なので、立場で言えば快人様の家に住み着いた旅人って感じではありますね。なので、アレでしたら普通に一般人として接してもらっても大丈夫ですよ」
「……無理です。ただ、少し安心した部分もあります。エデン様と同じ立場の方が相手となっては、ニフティの店舗に妙なちょっかいをかける者もいないでしょうしね」
アルクレシア帝国の貴族の中で、特に貴族主義が強い者たちは心底エデンを恐れており、別に関りは無くても異世界から来た神という、エデンに近い立場のカナーリスのことも恐れるであろうというのは容易に想像ができた。
変に圧力をかけようとしたり暴走するものを事前に牽制できたと思えば、プラスではある……まぁ、クリスの胃はキリキリと痛んでいたが……。
「しかし、新たに異世界の神と知り合うとは、ミヤマ様の交友関係の広がりは底が見えませんね……えっと、今後カナーリス様のようなお立場の方が増える可能性は?」
「どうでしょう? 自分は旅人みたいな感じだったので身軽でしたし、他の世界創造主は自分の世界もあるので自分みたいな立場になるのは難しいでしょう。ああ、でも快人様のファンは超多いので、一目会いたいって神は多いですね。皇帝陛下が会う機会があるかまでは分りませんが、快人様の交友がさらに広がる可能性はありますね」
「……なるほど……リリア公爵の気持ちがとてもよく分かります」
なんとも数奇なものではあるが、偶然にもこの瞬間三国の王たちはリリアの苦労を察し、理解した……胃痛という皮肉な共通点により……。
シリアス先輩「いつも通りの胃痛だった……さ、さぁ、次は店舗がオープンして繁盛する話だよな? な?」
???「次回はカイトさんサイドに話が戻ります」
シリアス先輩「……嫌な予感しかしない」