カナーリス⑰
ハイドラ王国の王宮にある謁見の間、ラグナの性格やハイドラ王国のスタンスも相まってあまり使う機会のない場所ではあるが、今回ハイドラ王国にとっても……もとい世界的にも重要な快人の紅茶ブランドの代表を迎えるにあたって、謁見の間を使うことにしていた。
そしてその謁見の間に国王であるラグナはいた……予定時間の二時間前に……。
「陛下、まだ来訪の時間までかなりありますが……」
「ああ、分かっておる。気にせんでよい、少しいろいろ考えたいだけじゃ……」
ラグナは今回来訪するカナーリスが、全能の神であることを知っている。だが、それは世間一般の認識ではなく、あくまで彼女が直接面識があるから知っているだけで、他の者にとっては快人のブランドの代表になった謎の人物以上の情報は無い。
(……正直、こんな高い位置でカナーリス様をお迎えするのは気が引ける。ワシの方が跪いて出迎えるべきじゃというのに……ぐぬっ、リリア嬢が胃が痛いという気持ちもよく分かる。じゃが、カナーリス様の正体を知るのがワシだけという状況であっては、迂闊なことをするわけにもいかないか……悩ましいものじゃ)
ラグナにしてみれば、大恩があり全能の神であると知っているカナーリスが来訪するのだから、跪いて出迎えたいところなのだが、他の者から見ればいかに快人にブランドの代表を任されているとはいえ、カナーリス自身の立場は国王であるラグナより下であり、ラグナの方が跪くわけにはいかない。
なんとも歯がゆい気持ちを味わいながら、ラグナは謁見の間で過ごし……予定の時刻になってカナーリスが到着して、謁見が始まった。
「ようそこいらした、カ、カナーリス殿……我が国はそう堅苦しい国ではない故、どうか楽にしてほしい」
「お心遣いありがとうございます。ニフティの代表として、また来月オープンする店舗の総責任者として、ラグナ陛下にご挨拶申し上げます。今後お力添えを頂く機会もあると思いますが、その際にはよろしくお願いします」
「こちらこそ、ニフティとはよい関係を作っていきたいと思う。今後とも長い付き合いになることを祈っておる……さて、カナーリス殿、簡単な挨拶はこれで終わりなのじゃが、親睦を深めるために別室に茶の用意をしてあるのじゃが、いかがだろうか?」
「それはありがたい申し出ですね。陛下のご厚意に甘えさせていただきます」
簡単な挨拶は終わり、ラグナの案内によってカナーリスは別室に移動する。そして、カナーリスと共に別室に入ったラグナは、王宮の兵士や使用人に持ち場に戻ることを伝え、カナーリスとふたりになったのを確認して応接室の扉を閉め、室内に結界魔法を展開してから凄まじい勢いで土下座をした。
「申し訳ありません、カナーリス様! あのような無礼な態度で……」
「へ? ああ、いや、気にしないでください。実際ラグナ陛下の方が立場は上ですし、そうでなくとも周囲の状況を考えれば仕方ないことですよ、というより、自分の正体を他に知られないようにと配慮してくれたんですよね? むしろ、お礼を言わせてください。あっ、自分表情筋がMAXで死滅してるのでこんな顔ですが、怒ってたりとかそういうのは一切ないので安心してください。たはぁ~紛らわしい顔で申し訳ない! さっきも言ったように今後もいい関係が気付ければと思ってますので、改めてよろしくお願いしますね」
「もったいないお言葉です……またこうして、カナーリス様にお会いできたこと、喜ばしく思います」
表情こそ変わらないが、カナーリスの口調は穏やかでありラグナもホッとした様子で顔を上げた。
「しかし、手紙をいただいた際には驚きました。まさか、カナーリス様がカイトの紅茶ブランドの代表になるとは……」
「たはぁ~快人様から勧めていただいて、その辺を任せてもらえることになりました。いや、快人様のガードが緩いというか、ほぼ初対面レベルの自分を信用しすぎで心配にもなりますが、信頼してもらえるのは嬉しかったりでなかなかどうして難しいものですね」
「カイトはかなり人を見る目に優れていますから、直感的にカナーリス様を信頼に足る相手と判断したのでしょう。それでも、いきなりブランドを任せるのは思い切った判断だとは思いますが……」
「いやはやまったくですよ。まぁ、そういう豪胆さも併せ持っているからこそ、いくつもの偉業をなせているんでしょうけどね。たはぁ~失礼、自分快人様のファンでしてついつい話題がそっちに……」
「いえ、ワシとしてもカイトの話題は話を広げやすくて助かりますよ」
ある程度緊張も解けたのか、ラグナはどこか楽し気にカナーリスと雑談を続けていった。
シリアス先輩「ラグナって受けた恩は一生忘れないとか、そういう義理堅いタイプっぽいし、結構信仰心もガチってそうではある」
???「ですねぇ。ところで、シリアス先輩……十分休めました?」
シリアス先輩「え? なんでそんな質問するの……嫌な予感しかしないんだけど……甘いやつするの?」