カナーリス⑥
残業で帰宅が遅くなったので短めです。
カナーリスさんを家に住まわせるのは俺としてはまったく問題ないのだが、カナーリスさん自身が言ったように互いの条件などをすり合わせる必要はある。
俺としては家賃とかも必要なく、普通に空いてる部屋を使ってもらえればいいのだが、カナーリスさんはそれでは納得しないだろうし、なんにせよ話し合いは必要である。
というわけでネピュラを加えて三人で話すことになったのだが、ネピュラは1mほどと小柄であり応接室のソファーやテーブルはサイズが合わない。専用の椅子なんかがあればよかったが、そういったものもない……そんなわけでネピュラは現在、カナーリスさんの膝に座る形になっている。
いや、それ自体は問題ないのだが……カナーリスさんの方がなにやら大変そうな感じだった。いや、例によって表情とかは一切動いてないのだが、目が高速で上下左右に動いており、表情が変わらなくても動揺しているのがこれでもかというほど伝わってきた。
というか、そんだけ動揺してても動かない表情筋は本当に鉄壁である。
「……カナーリスさん、えと、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。自分はいま、唐突に降って湧いた幸福が巨大すぎて受け止め切れていないだけでして、いいか悪いかで言えば、滅茶苦茶に幸せなんですが……同時に背筋が凍り付くような感覚です」
「背筋が? それは、なんでまた……」
「いえ、なんというか私事なのですが……ひとつ言えるのは、いまここにいる自分は数多の銀河消滅パンチの果てに存在している感じでして……いや、これバレたら今度はパンチじゃすまないなぁとか、そんな感じで天国と地獄が同時に来たような感覚ですね。まぁ、とりあえず話に支障はありませんので……」
「わ、分かりました」
なんか物騒な単語が聞こえた気もするが、とりあえずカナーリスさんは気にせず話を進めてくれと言ってきたので、それに従って細かな条件のすり合わせを行った。
そしてやはりというべきか、ネックになるのは家賃をどうするかという問題だった。もちろんカナーリスさんは全能級の力を持った神様なので、お金なんていくらでも作り出せると思うのだが……。
「いえ、いくら創造が可能だからと言ってそういった金銭とかを際限なく創造するのは、通貨のバランスを崩したりする可能性もありますし、なにかしら仕事をして金銭を得ようとは思っています」
「……な、なるほど」
本当にびっくりするぐらいマトモというか、全能の力を持ちつつもあまりそれを多用しようとはしていない感じがする。
するとそのタイミングで、ネピュラがなにかを思いついたように軽く手を叩く。
「主様、提案があります。主様やアニマさんたちは、紅茶ブランドの実店舗を作ることにお悩みだったと思います。その辺りをカナーリスさんに任せてみてはいかがでしょうか?」
ネピュラの提案は、なるほどと思えるものだった。確かにニフティの店舗を作る話はしており、その責任者に関して悩んでいた部分はある。
三国に同時オープンする必要がある以上、転移魔法が得意で三国を行き来できるような人が望ましいと思っていたので、まさに適任と言えるかもしれない。
カナーリスさんの意思次第ではあるが、紅茶ブランドの関連を任せて給料を支払い、そこから家賃を貰うという形はかなりいいのではないかと思う。
シリアス先輩「表情筋が死んでるから接客は難しいとしても、責任者なら確かにこれ以上ない人材だと思う。というか、全能級だし基本なんでもできるし……」