カナーリス②
アリスの言う通り別の世界の神というなら、そもそもどこから手紙を送ってきたのか謎ではあったが、送られてきた先は普通にハイドラ王国の住所であり、そちらに返事を送ることになった。
まぁ、本当に全能級の神であれば住所程度どうにでもできると思うし、そこはまぁ問題ではない。重要なのは、結局のところ最初にパーティに居たことも含めてなにが目的かという点だ。
俺個人としての印象ではジェーンさんは悪い方ではない。表情筋は死んでいたが、やり取りに悪意などを感じることは無く、むしろいい人のように感じられた。
完全に直感的なものではあるが、アリス曰く「カイトさんのその手の第一印象は相当の的中率」とのことなので、大丈夫だとは思いたい。
そして、手紙のやりとりを何度かして日程を決め、いよいよジェーンさんが来訪する日となった。正直シロさんやマキナさんと同格の神というのであれば、もっと強引に来訪しそうな印象だったが……丁重に手紙のやりとりをして、日程をしっかり相談した上での来訪なので、この時点ですでにかなりマトモな人って印象だ。
「いや~船上パーティ以来ですね。こうしてまた快人様とお会いできて嬉しい限りです……あっ、これ焼き菓子なんですがどうぞ」
「こんにちは、ジェーンさん。手土産、ありがとうございます」
「いえいえ、安物で申し訳ない……っと、失礼。その前に自分、ちょっと謝罪いいですか?」
「え? 謝罪、ですか?」
「ええ、というのも自分実は快人様に嘘を付いてしまっておりまして、前回名乗ったジェーン・ドゥという名前なんですが、実はこれ本名ではないんですよ。たはぁ~複数の名を持つミステリアスな女で申し訳ない。悪意があったわけじゃないんですが、どうにも自分ちょっと事情がありましてしばらく本名を名乗ってなかったというか、そういう感じでとっさに偽名を名乗ってしまいました」
アリス曰くジェーン・ドゥというのは俺の居た世界で女性の身元不明遺体に付けられる名前らしく、もしかしたら偽名かもしれないという予想もしていた。
ただジェーンさんの口ぶりだと本当に俺を騙そうとした感じではなく、なんらかの事情で本名を名乗るが気が引けて偽名を使った感じっぽい。
「……改めまして、自分、カナーリスと申します。お手数ですが、こちらの名前に認識をアップデートしてもらえるとありがたいです」
「カナーリスさんですね、了解です」
「あっ、あとあの護衛の方から聞いてるかもですが、自分別世界から来た神です。あ~いや、自分の世界は創造しましたが、向き不向きってあるもので、自分には世界の管理は向いてなくて知り合いに任せて、あっちこっちの世界を放浪していたので、元神って言い方が正しいかもしれません。たはぁ~設定が二転三転して申し訳ない!」
なんというかあまりにもアッサリ自分が神であることを認めたというか、別に隠す気もなさそうな感じである。そんなジェーンさん改めカナーリスさんを応接室に案内しつつ、会話を続ける。
「ちなみにパーティの時にラグナさんに付いてきたというのは?」
「それは事実です。いや、まぁ、姿を消して後ろを付いて行った感じなので、ラグナ陛下の同行者として参加したってわけではないですが……おっと、ご安心ください。確かに自分、正式な招待を受けておりませんでした。そんな状態で飲食をするほど恥知らずではございません。美味しそうな料理を羨ましそうに見つつも、まったく手は出しておりません!」
「……いや、別に飲み食いしてもらってもよかったですけど……」
「おっと、想像以上の懐の広さ、流石は快人様、素敵です! ……できればパーティの時に聞きたかった」
相変わらず軽快でテンポのいい会話をする方ではあるが……表情はピクリとも動かない。どうやら表情筋が死んでいるというのは、別に演技とかではなく本当らしい。
まぁ、その手のはシロさんで慣れているとはいえ、カナーリスさんの場合は声には感情が乗りまくってるので、抑揚のない声のシロさんとはまた違った感じがする。
「というかそもそも、なぜあのパーティに?」
「快人様を見たくて参加しました。あ~えっと、気を悪くしないでいただきたいんですが、快人様って世界創造の神々たちの中でいま一番ホットな話題というか、噂になりまくってるわけなんですよ。たはぁ~これはアレですね、いわゆるトレンドってやつですね!」
「……え? 俺が? な、なんでまた?」
「う~ん、これも快人様の恋人を悪しき様に言ってしまうので、気を悪くしないでいただきたいんですが……シャローヴァナルは、世界創造の神々たちが心底恐れる終焉そのものって感じでして、そのシャローヴァナルに勝って恋人になった快人様は、世界創造の神々たちにとって、まぁ、なんていうか……『なんだあのバケモノ』って感じでして、皆一目置いてる感じですね。あっ、もちろん自分も快人様のファンです!」
「………………な、なるほど?」
なんか、サラッととんでもない話をぶち込まれた気がするんだけど……え? 俺って、全知全能の神々たちに噂されてるの? 衝撃の新事実である。
シリアス先輩「それだけシロが恐れられてたってことだろうけど、本当に貴族と言い神々といい、変なところで有名になってるな快人……」
???「一般人への知名度は、アリスちゃんの活躍もあってそこまではありませんしね……しかし、なんでしょうね? 聞こえませんか、どこかの公爵への胃痛フラグがガンガン建ってる音が……」
シリアス先輩「もう許してやれよ……」