カナーリス①
クロに頼まれた試供品の宣伝……なんだかんだで結構あちこち回って時間がかかった気もするが、問題なく終わった。
まぁ、結構いままで行ったことのない人の家にお邪魔したり、興味深い話を聞けたりと楽しかった。そこそこトリニィアに来て長くなっていろいろ知ったつもりではあったが、まだまだ行ったことのない場所が圧倒的に多いと実感した。
またいろいろなところに行ってみたいが、ひとまずしばらくはのんびりと……。
「ご主人様、少しよろしいでしょうか?」
「アニマ? うん、どうかしたの?」
「ご主人様宛にこの屋敷への来訪を希望する内容の手紙が届いていまして、普段はこういったものはこちらで断りを入れているのですが……以前にご主人様と会って自己紹介をしたという内容が書かれていたので確認に来ました」
「なんだろう? その手の手紙を送ってくるのって貴族とかだよね? 六王とかの関係者だと、六王幹部とか六王本人を経由して連絡してくるし……ああいや、直接会ったことがあるなら手紙を送ってきてもおかしくないかな? ちなみに誰?」
俺は貴族の間ではかなり有名ということなので、この手の手紙はよく届く。それでもリリアさんの元とかに届く手紙と比べると少ないので、各国の国王やアリスとかが上手く牽制してくれてるんだと思う。
内容的には本当にパーティとかの招待や、一度会って話がしたいとかそういう感じのが殆どで、基本的にはアニマが代わりに断りの手紙を返してくれており、俺の元に届くのは知り合いからの手紙だけだ。
しかし今回、アニマはどうにも迷うような表情であり、たぶんだけどアニマは手紙を送ってきた人物に心当たりが無いのだと思う。
でも、基本的に資産とかも含めて俺の家のことをほぼ取り仕切ってくれていて、恋人でありよく話すアニマが名前も把握してない俺の知り合いなんて居るんだろうか?
「手紙には、ジェーン・ドゥと書かれているのですが、心当たりはありますか?」
「あ、ああ! なるほど、ジェーンさんか……うん。この前の船上パーティでラグナさんに同行してきたって人で、パーティで挨拶をしたんだ」
「なるほど、そういうことでしたら自分が知らないのも納……ご主人様? いま、ラグナ殿が同行者として連れてきた相手と言いましたか?」
「え? うん、そのはずだけど……」
「それは、妙ですね。自分は招待客の同行者も含めて把握していますが、ラグナ殿の同行者に……いえ、パーティに参加したものの中にジェーン・ドゥという名前の者は居なかったと思うのですが……ああ、いえ、自分が忘れてしまっているだけかもしれませんが……」
「……え? あれ?」
それは確かに妙な話だ。アニマ自身が言うようにド忘れしているという可能性が絶対にないとも言えないが、そもそも俺の知り合いではなく参加者の同行者として船上パーティに来ていた人の数は少なく、それこそ10人以下とかそのぐらいだと思う。
というかジェーンさんはハイドラ王国の貴族だったような……いや、待てよ。言ってないな、高貴な雰囲気が出ちゃったか~的なことは言ってたが、貴族であるとか言ったりはしてなかった。
「……それは確かに妙だけど、悪い人って感じじゃなかったんだけど……」
「そうですね。あの場にはシャローヴァナル様やアリス殿も居ましたし、侵入者を見逃すとは思えません」
「う~ん……アリス、ジェーンさんのこと知ってる?」
アニマの言うことはもっともであり、アリスがパーティ会場に招待客じゃない人が居て気付かない訳もない。となるとアリスに聞くのが一番だと思って尋ねてみると、珍しくアリスも難しそうな表情で出てきた。
「う~ん……たぶん別の世界の神だと思うんですよ。私は、この世界の住人の顔と名前ぐらいは全部覚えてますが、その中にあの人は該当しません。パーティ後に調べてみても、パーティ以外の場所で目撃されたことは無かったですし、そもそも推定ですが全能級レベルでしたからね」
「それはなんかまた、とんでもない話に……というかお前サラッと、世界中の人の名前と顔覚えてるとかって……まぁ、いいや。ともかくジェーンさんはどこかの世界の神ってこと?」
「その可能性は高いと思いますが、本人は元神みたいなニュアンスの発言をしていたので、なんらかの事情はあるのかもしれませんね。ただ、カイトさんに対する害意とかはなかったですし、シャローヴァナル様にも許可を取って来たみたいなので、問題がある相手ではないとは思います。ちなみにシャローヴァナル様にも聞きましたが『ここではない世界を作った神で、この世界にしばし滞在したいと言われたので許可しました』って言ってて、詳しい情報はなにも得られませんでしたね」
「なるほど……まぁ、やっぱり悪い人ではないみたいだし、話も聞いてみたいから……アニマ、家に来てもらっても大丈夫って返事してもらえるかな?」
「了解しました」
なんか思ったよりも大きな話になってきたが、本当にいい人っぽい感じではあったし、アリスやシロさんが把握している以上あまり心配する必要はないのかもしれない。
シリアス先輩「事実として、絶対者の教育が行き届いてるからめっちゃマトモ……というか、そもそも来訪に関しても勝手に来たりせずに事前に書面で伺いを立ててきてるから、その時点で相当マトモだと思う」