ネオ・ベビーカステラブレンド㉞
ジュースを出してもらった後、そもまま自然と雑談の流れになった。話題はやはり今回持ってきた試供品に関連したコーヒーの話だ。
「アリスから教えてもらったんですけど、竜王配下……というか四大魔竜の皆さんは、紅茶よりコーヒーが好きな人が多いんですね」
「ああ、というよりは竜種は比較的紅茶よりコーヒーを好む者が多いな。あくまで割れの知る限りではあるし、明確な根拠などがあるわけでもないが、種族的にそうなのかもしれん……だが、別になによりコーヒーが好きというわけではないな。我であれば、紅茶とコーヒーを比較して選べと言われればコーヒーを選ぶが、あらゆる飲み物から選ぶのなら酒の方が好みではある」
「あ~なるほど、メギドさんとかもそうでしたね。というか、それで結構疑問だったんですが、高位魔族の人って状態異常系はほぼ無効化できる人が多いと思うんですけど、酒で酔ったりするんですか?」
例えば六王であるメギドさんに状態異常の類が通用するとも思えないし、俺の場合はシロさんの祝福がある程度のところで酔いを無効化するわけだが、メギドさんとかも同じことができても不思議ではない。
最初の飲み比べの時はまだよくわかってなかったが、六王も俺から見ればほぼ全能みたいな存在だし、メギドさんは魔法技術も高いので出来ると思うのだが……。
「その辺りは好きに調整できるな。表現は難しいが、飲む前に己でどの程度まで酔うかを決めておけるし、酔いを抜こうと思えば一瞬で抜くことができる。故に仮にではあるが、状態異常を無効化できる魔族同士が飲み比べなどをする場合は、事前に解除するのが決まりだ。ある程度高位の実力者であれば、その手の状態異常無効を展開しているかどうかは分かるからな」
「なるほど……う~ん。えっと、実は以前にメギドさんに飲み比べを挑まれて勝利したことがあるんですけど、その時は俺にシロさんの祝福があって一定以上に酔わないので、それを知ったメギドさんが負けを認めた感じでしたけど……そういうことならそれって、反則では?」
「いや、戦友の場合は状態異常無効の魔法とはまた別の要因といえるし、仮に状態異常無効の魔法を使っていたとしても勝負の前に見破れなかったのであれば対峙する側の実力不足だ。メギド様も同じ思考だろう。戦友に創造神シャローヴァナル様の祝福があり、それが酔いを無効化するものであると事前見破って指摘できなかった以上己の敗北であると……」
言われてみれば確かに納得できるし、メギドさんならそういいそうだ。実際これまでのやり取りでもメギドさんは特にその勝敗を気にしている様子もなく、あの飲み比べは自分の負けだったと認めている感じだし、そもそも過ぎたことをあれこれ言う人ではない。
実際俺も気にしてたりというわけではなく、単純に疑問だったから尋ねてみただけなので、フレアさんの回答を聞いてスッキリした気分ではある。
「なんとなくフレアさんは日本酒とかそういうのが好きそうですが……あっ、日本酒って、この世界にあるんですかね?」
「話だけは聞いたことがある。たしかコメから作る酒だったか? コメ自体が比較的珍しいが、クロムエイナ様のところのノインや、リリウッド様のところのブロッサムが好んでいるという話は聞いたことがあるな」
「あ~確かにそのふたりは、間違いなく好きですね」
「ふむ……しかし、戦友が我が好みそうと語るのであれば、興味はあるな……いずれ飲んでみることにしよう」
「そうですね。機会があれば是……あっ……」
この世界では米がそもそもマイナーなので米から作る日本酒もあまり有名ではないようだった。それでもたびたび見かけるので存在自体はしている……というか、いま話してて完全に思い出した。
「……フレアさん。実は丁度日本酒というか、日本酒っぽいお酒を持ってるんですが……よかったら飲んでみませんか?」
完全に忘れていたが、香織さんの店で購入してフィーア先生と一緒に飲んだ日本酒っぽい酒がある。フィーア先生と飲んで気に入って、あとで飲もうと思って同じ酒を買ったのだが、すっかり忘れてマジックボックスに入れたままにしていた。
「それはありがたいが……いいのか?」
「ええ、というか俺も持ってることを忘れてましたし、さっきの話で思い出せてよかったですよ……これです。どうぞ」
「ありがとう……清涼なよい香りだな。では、失礼して……ほぅ、なるほど、これは素晴らしい。香りのわりに甘みなどはほぼなく、スッキリとした味わいが心地よい。戦友の言うように、我の好みに綺麗に当てはまる。いいものと巡り合えた、戦友には心よりの感謝を……」
「あはは、気に入ってもらえたならなによりです」
「ああ、だが、ひとりでというのも寂しいものだ。せっかくだし、戦友も付き合ってはくれないだろうか?」
「ええ、一緒に飲みましょう」
自分用のグラスを取り出して、フレアさんと軽く乾杯をして日本酒を飲む、以前も思ったがアルコール度数はかなり高い印象だが、フレアさんの言う通り後味がスッキリしていて非常に飲みやすい。
まぁ、本当に真昼間と言っていい時間ではあるが……たまには、こういう時間に飲むのもいいだろう。
シリアス先輩「そういえば、そんな酒買ってたな……私もすっかり忘れてた」