ネオ・ベビーカステラブレンド㉜
フレアさんの部下の人は、俺に挨拶をした後で時空間魔法らしきものを使って巨大な箱のようなものを出現させた。これがフレアさんが頼んでいたものということだろうか?
「姉御、こちらです」
「ああ、手間を駆けさせたな、ご苦労だった。コレはこの場で受け取ろう」
数メートルはあろうかという巨大な箱を、フレアさんはひょいっと小箱でも持つように担ぎ上げる。すると箱が光を放ち直後に消えた。マジックボックスとかに収納した感じではなかったので、たぶんどこかに転移させたのだろう。
そのあとで何か巨大な樽のようなものを出現させて、部下の人の前に置く。
「他の者と一緒に飲むといい」
「ありがとうございます、いただきます! では、アタシはこれで失礼します!」
「ああ、他の者にもご苦労だったと伝えてくれ」
「了解です!」
フレアさんに返事をして俺に軽く一礼をした後で、部下の人の体が光を放ち巨大なドラゴンに変わる。そして、フレアさんから受け取った樽を空間魔法で収納した後で飛び去って行った。
「すまんな、戦友、時間を取らせた」
「いえ、気にしないでください」
「物作りが得意な部下たちに頼んでいたものがあったのだが、もう少し時間がかかるかと思ったがどうも急いで作ってくれたようだ」
「さっきの大きな箱ですよね? 鍛錬用の道具とかですか?」
「間違ってはいないが、戦友が想像しているものとは少し違うと思う。興味があるようなら見てみるか? 少し寄り道をする形にはなるが、我の私室に向かう途中の部屋に置く予定だ」
「よくは分かりませんが、フレアさんがいいのであれば是非」
とりあえず箱の中身には興味があったので頷いて、フレアさんと一緒に移動する。かなり広めにの廊下をしばらく歩き、大きな両開きの扉が途中に見えたところでフレアさんは立ち止まった。どうやらこの部屋のようだが、かなり重厚そうな扉である。
「なんか、凄い扉ですね」
「別に大したものではない、エインガナの勧めで広さがあったほうがいいということだったのでな、大きめの部屋を用意したわけだ。まぁ、中に入ろう」
「はい……おっ、おぉ……これって……なるほど、音楽の練習をする部屋ですか」
部屋の中に入ると、先程フレアさんが言っていた言葉の意味が理解できた。部屋の中には複数のギターや、演奏に使うであろう魔法具などが置いてあり、ステージっぽい舞台まであった。
それで思い出したのが、ハイドラ王国で見たフレアさんとエインガナさんとファフニルさんの三人でやっていたバンドだった。
つまりこの部屋はそのバンドの音楽を練習する部屋で、先程の箱もその関連の品なのだろう。だから、鍛錬に使うという意味では間違いないが、俺が想像しているような鍛錬ではないという感じの言い回しだったのだろう。
「そういえば、ハイドラ王国でライブ演奏をしてましたね……ドラゴンソウルでしたっけ?」
「うん? もしかして見に来ていたのか? 戦友の来訪に気付かなかったとは、我もまだまだ未熟だな……」
「……あ~いや、それに関しては少々複雑と言いますか……と、とにかく、さっきの箱の中身もバンド活動に使うものなんですね?」
確かに俺はハイドラ王国でフレアさんのライブを見たのだが、それはシロさんと一緒に回っているときであり……つまるところ別の次元での話なので、フレアさんが俺がライブを見に来たことに気付いていないのは当然だ。とはいえ説明すると長くなりそうなので、話を戻すことにした。
「ああ、音の反響を調整する魔法具でな、部屋の四方に設置して使用するんだ。きっかけがなんであれ、己自身で手を出すと決めた以上は全力で取り組むのが我の流儀。演奏に関しても手を緩めるつもりはない……今以上の高みに至れるように、全力で鍛錬をするつもりだ」
「ははは、なるほど、フレアさんらしいですね。でも、演奏してる姿はカッコよかったですよ。俺は楽器の演奏とかはさっぱりですが、ああいうのを見てるとやってみたいなぁと思ったりもしますね」
「ふふ、そうか、ではその気になったら是非声をかけてくれ、遊びで鳴らす程度であれば我にも指導することができるだろうし、戦友と一緒に演奏をするのは楽しそうだ」
「それはいいですね、機会があればぜひ」
いや、実際俺も高校生の頃とかにはちょっとギターに憧れたりもしたものだ。まぁ、手を出すにはギターを買ったりコードを覚えたりとハードルが高そうな感じだったので、結局手は出さなかった。
……でも、この世界にもギターがあるんだし、いまは金銭的にも時間的にも結構余裕があるし、本当に演奏してみるのもいいなぁとは思った。
シリアス先輩「おっと、なんか変なフラグ立ったぞ」
???「でも、カイトさんって結構音楽には向いてるんですよ。耳もいいですし、感応魔法があるのでそれこそ音に感情を乗せたりとかもできるので、その気になったら結構すごいこと出来そうな気もするんですよねぇ……」