ネオ・ベビーカステラブレンド㉛
しばらく飛んでそれらしい山が見えてきたのだが、フレアさんの住処は俺の予想とは違う感じだった。というか、家というよりは城……いや、砦みたいな感じで、山に面していることもあってなかなか堅牢そうな雰囲気だ。
「えっと……アレですかね?」
(ああ、あそこが人の姿で利用している住処だ。竜の姿で使用しているのはあの住処の左上の方に入り口がある)
「あっ、あの大きな洞窟みたいなのですね。なるほど……けど、人化した姿で利用している家もすごく大きというか、パッと見た感じ砦みたいですね」
(ああ、戦友の言わんとすることは分かる。だが、竜の姿で着地して、そのあとで人化するというパターンもある以上ああいった形状の建物の方が便利なんだ)
そっか、考えてみればそれはそうだ。いまみたいに竜の姿で移動して、屋上に着地してから人化して中にという形にするなら、5m級の竜の姿で着地できるサイズの屋上が必要であり、なんだかんだで住処全体も大きめにしておいたほうが便利なのだろう。
(あと一見すると巨大なように見えるが、8割ほどは鍛錬などを行う施設故、生活する空間という意味ではそれほど広くはない。何事も一度は試してみたくなる性格でな、人界や魔界などの古今東西のトレーニング器具や施設は一通り揃えてある)
「それはまた凄くフレアさんらしいというか、確かにそれなら部屋もたくさん必要でしょうし、巨大なジムみたいになりますね」
(ふむ……戦友よ、浅学で申し訳ないがそのジムというのは?)
「ああ、俺の世界にあったなんていうか……会員制で器具とかを利用して体を鍛えることができる施設ですね」
フレアさんがジムという単語に興味を持った様子だったので、簡単に俺の知るスポーツジムに関して説明する。
(なるほど、自身で機材や場所を用意するのではなく、あらかじめ用意してある場に金銭を支払って赴いて体を鍛える……なるほど、それならば初期投資の費用なども抑えられるし、気軽に鍛錬をしやすくなるのか……素晴らしいな。向上心はあれども金銭事情が裕福でない者たちに、そういった場を提供できれば……よい話を聞けた、今後の参考にさせてもらう)
どうもフレアさんはかなりジムに食い付いている様子で、この分だとそのうち実際にジムを作りそうな気がする。この世界にジムとかが無いのは、俺が居た世界に比べて電車などといった公共交通機関が発展してなくて、遠出するのがやや大変という辺りが理由かと思う。
なのでフレアさんが部下向けとかにジムを作るのは、実際かなり有用だと思う。竜種には空を飛べる方が多いし、アクセスに関してもそこまで問題ではないだろう。
そんな会話をしながらフレアさんが砦っぽい家の屋上に着陸すると、屋上には人影があった。フレアさんの部下らしき女性の方で、フレアさんが俺を下ろして人化をするのを待ってからバッと勢いよく頭を下げた。
「お疲れさまです、姉御!」
「ああ、どうかしたのか?」
「姉御に頼まれた品が完成したのでお持ちしました!」
なんか、フレアさんの部下の人って……部下というより舎弟って雰囲気なのは、フレアさんの服装が番長っぽいからだろうか?
そのまま部下の方はフレアさんとなにかを確認するように話した後、俺の方に気付いて頭を下げてきた。
「これは、『兄貴』もご一緒でしたか、お疲れさまです!」
「え? こ、こんにちは……あの、兄貴って?」
「姉御の戦友っすから、アタシらにとっては兄貴みたいなもんです!」
「な、なるほど?」
なんかまた妙な呼び名が増えたし、姉御の戦友だから兄貴ってのも若干疑問はあるのだが、大きな声と勢いで押し切られて思わず頷いてしまった。
まぁ、いまさら呼び名がひとつ増えるぐらい大した差ではないか……。
シリアス先輩「さすがは、種族名、我が子、果ては我が神とまで呼ばれてる男だ……達観具合が違う」