ネオ・ベビーカステラブレンド㉚
茜さんにも試供品を渡し終え、残る試供品を渡す予定の相手はフレアさんだけである。いちおう他の竜王配下の方やマグナウェルさんにも渡してもらえても大丈夫なように、クロに頼んで試供品を追加で何個か貰ってある。
フレアさんとは以前にドラゴンカーニバルに行った時と同じ転移ゲートの前で待ち合わせをしており、すぐに合流することができた。
「よく来た戦友よ。貴殿の来訪を心より歓迎しよう」
「こんにちは、フレアさん。ハミングバードで伝えた通り、こちらがコーヒーの試供品です。マグナウェルさんとか、他の四大魔竜の方たちにも渡せるように複数個用意してきたので、その辺りはフレアさんの裁量で渡してあげてください」
「心得た。戦友の気遣いに感謝を……さて、せっかくこうして訪ねてきてもらったのだ。戦友を我の住処に案内したいと思うのだが、構わないか?」
「ええ、フレアさんさえよければ是非」
微笑みながら家に招待してくれるフレアさんに、当然断る理由も無いので頷く。俺の返答を聞いたフレアさんは、軽く頷いたあとで本来の竜の姿に戻る。
(それでは、戦友よ、我が背に乗るがいい)
「はい。それじゃあ、失礼しますね」
以前にドラゴンカーニバルの会場に連れて行ってもらった時と同じように、フレアさんの背に乗って移動を開始する。
前の時もそうだったが、フレアさんはこちらに合わせた速度で飛んでくれるので安心であり、空からの景色を楽しむ余裕もある。
ただひとつ疑問に思ったのは、フレアさんの住処がどんなところか……というか、どちらの基準の住処なのかという部分だった。
フレアさんはいまの、5mほどの翼竜の姿が本来の姿であり、俺が見慣れているさらしに学ランのような服装の人間の姿は人化の魔法を使って変身している状態だ。
となると、住処というのは竜としての住処である可能性が高いのだが……その場合は普通の家じゃないんじゃないだろうかと、そんな風に考えてします。
「……ちなみに、フレアさんの住処ってどんなところですか?」
(うん? ああ、戦友の言わんとしていることはなんとなく理解した。竜としての姿と人としての姿、どちらを基準に住処を用意しているのかということだな?)
「ええ、竜の姿基準の住処だと、俺にはいろいろ大きすぎるかなぁと思いまして……」
(それに関しては、案ずる必要はない。人の姿に合わせた家に案内するつもりだ……正しくは、我は竜としての姿に適した住処と、人としての姿に適した住処の両方を所持している。書類仕事などは竜の姿でやるのは手間ではあるし、竜の姿では嗜好などにも制限がかかる場合もある故、どちらでの姿でも過ごせるように住処はふたつ隣接して用意している)
「あ~なるほど、竜として生活しやすい大きさの建物と人間の家みたいなのが隣接してる感じですかね?」
(その認識で問題ない)
なるほど、言われてみればどちらの姿でも生活できるのが一番便利ではあるだろう。フレアさんぐらいの実力者になると常時人化の魔法を使用していてもまったく問題にならないだろうし、両方用意するのが効率的ではある。
(さらに詳しく語るのであれば、我は大きめの山をいくつか己の土地として所有している。そこに住処を作っている形だ。希望する一部の部下にも住むことを許しているので、人族たちの言葉で表現するなら、近所に部下が住んでいるような形と言えるな)
「へぇ、けど凄いですね山をいくつも所有してるとか……」
(魔界の南部の土地の多くはマグナウェル様の所有するものであり、我もそうだが一部の者にはマグナウェル様より土地を下賜されている。我の所有する山に関しても金銭で権利を購入したものではなく、マグナウェル様に下賜された土地だ)
「なるほど……さすがスケールが大きいですね。けど、どんな場所か見るのが楽しみになってきました」
(期待に添えるといいが……とりあえず、いまの速度であと15分ほどはかかる故、ゆっくりするといい)
何気に魔界の南部はあまり来たことが無い。というのも魔界の南部はマグナウェルさんが治めている関係上、魔物などがかなり多く、他に比べて都市などが少な目だからだ。あと単純にマグナウェルさんがどこかの都市に住んでるとかではなく、岩山の並ぶ場所に住んでいるというのも要因のひとつだ。
……いや、でも、他の地域も六王に関連する場所以外はあんま行ったことが無いかも……魔界はかなり広大だし、もっといろいろな場所に行くのも面白いかもしれない。
シリアス先輩「そういや、快人の生活拠点が人界の関係上、魔界にはあんまり足を運んでないな」