ネオ・ベビーカステラブレンド㉙
フラウさんがコーヒーを淹れて持ってきてくれた。コーヒーカップではなくマグカップに入っており、なんとなく茜さんの雰囲気に合う気がする。
たぶん普通に来客用にコーヒーカップとかもあるんだろうけど、今回は俺が相手なのであえてマグカップの方で出してくれたのだと思う。
「ほ~ええ香りやな、流石クロム様の商会の品は質がええわ」
「ミヤマ様、騙されないようにご注意ください。分かった風な口をきいていますが、この会長普段は安物のコーヒーばかり飲んでますから」
「それは別にええやろ!? ウチは別にドリップコーヒーとか缶コーヒーでええねん。いや、この世界に缶コーヒーはないけどな」
「そうなんですか、試供品の豆を見てサッと選んでましたし詳しいのかと……」
茜さんはコーヒーは好きではあるが、種類などにあまり拘りは無い印象だ。通勤途中に缶コーヒーとか、コンビニのコーヒーを買うサラリーマンのように、朝の一杯とかそんな感じに常飲している感じなのかもしれない。
ただ、先程軽く豆を見ただけで選んでいたり、いまも香りだけで質がいいと語っていたり雰囲気的には詳しそうだった。
「おん? 詳しいで……ああ、そういうことか! いや、自分でいろいろ飲むから詳しいんやのうて、商会で取り扱うから質のええもんとか目利きできるって感じやな。ウチが個人で飲む分には拘りはないなぁ……あと、あんま高級な豆仕入れると、フラウとか他のアホ共が勝手に飲むしな」
「高級品を我々の目の届く場所に置いてあるのが悪いと思います」
「せやから、置いてへんのやろ……あ~フラウ、棚に貰いもんの菓子あったやろ、快人に出してやり……お前は2個までや」
「……ここは、10個でひとつ」
「もうちょい控えめな交渉しろや……3個や、それ以上は給料から天引きするからな」
相変わらずコントのようなやり取りをしているが、すでに俺の前に菓子は置かれておりフラウさんの手際の良さを感じられる。
まぁ、ちゃっかり自分用のコーヒーも淹れて飲んでるので、その辺りも含めフラウさんらしい……ルナさんと気が合うのも分かる気がする。
「そんで、快人はいろんな知り合いに宣伝してるわけか……お前が宣伝するなら、相手はどえらい方ばっかりなんやろなぁ」
「う~ん、戦王五将のオズマさんとか、上級神のシアさんとか、有翼族の長のアメルさんとか……その辺りですね」
「お前、本当に……軽く言ってるけど、それ普通に会える方々やないからな」
他にもエリーゼさんにも渡しているが、エリーゼさんは一般人だし、マキナさんは夢の中で話しただけなので試供品を渡したりはしていない。
「まぁでも、今回はクロが依頼主ですから、その気になれば本人が宣伝できますしね」
「あ~それもそうやな。クロム様はごっつ知り合い多いし、本気で販売戦略に組み込む気なら自分でやるわな。単に快人に試供品渡すついでに軽く頼んだだけやろな」
「ですね……あっ、そういえば、茜さんに委託をお願いしてるアクセサリーの売り上げ、かなりいいみたいですね」
「そりゃ、竜王様の鱗使ったアクセサリーなんやし、売れん理由が無いわ。竜王様は特に商人とかに広く信仰されてる方やから、欲しがる相手はほんまに多いで……むしろある程度購入制限かけてるぐらいや」
茜さんに販売をお願いしていたマグナウェルさんの鱗で作ったアクセサリーの売り上げは非常に好調であるというのは、アニマやキャラウェイから聞いて知っている。
そういえば以前にリリアさんから、マグナウェルさんは一部では商売の神様のように扱われているとか……原因としては、飛竜便とか魔物の売買とかが関わってると聞くが、詳細は知らない。
「でも好調いうんやったら、快人のところの紅茶ブランドも盛況みたいやん。最初に話題性でえらいブーストかかったけど、そのあとも継続して売れてるっちゅうことは品質が評価されてるわけやしな。店舗とか作ったりせんの?」
「いちおうそういう計画もあるみたいなんですが、人界三国に同時に作らないと揉めそうみたいで、作るなら三店舗同時オープンの形になりそうなのと、それを統括できるような人が居ないので保留してる感じですね」
「あ~せやな、三国に渡って展開するんやったら、せめて転移魔法ぐらい使える責任者が欲しいな。どこか一国に絞るんやったらともかく、三国の店舗回ったりするんも大変やし、品物的に富裕層がターゲットになるからいろいろ気も使うわな」
「ですね。まぁ、その辺りはおいおい……いい人材が見つかったらですね」
確かに茜さんの言う通り、転移魔法が使える人だと任せやすいかもしれない。転移魔法具を使う感じでもいいのだが、どうせなら魔法にも明るい人がいい気はする。
まぁ、焦って作る必要があるわけでもないし、心の片隅に置いておくだけでいいだろう。
???「全能級が待機してるから、問題ないですね……ヨシ!」
シリアス先輩「どの辺りがヨシ!?」