ネオ・ベビーカステラブレンド㉘
アメルさんにコーヒーの試供品を渡し終え、あとはフレアさんともうひとりとなった。すでに予定は確認しているので順番的にはフレアさんが最後になりそうだ。
というわけで予定を確認しておいたもうひとりに会いに来たのだが、場所が何気に始めてくる場所だった。シンフォニア王国の交易都市のひとつであり、首都の転送ゲートから行けるのですぐではあるのだが、始めてくる街だ。
「えっと……こっちだな」
事前に調べたメモを参考に歩くと、普通の一軒家の倍ぐらいのサイズの建物が見えてきており、看板にはこの世界の文字で三雲商会と書かれている。
そう、茜さんの商会の拠点である。とはいえ、他の商会とは違って茜さんの商会は移動商会なので、この拠点は事務所や倉庫などの用途が強く、ここで商品などを販売していたりはしないらしい。
「おっ、よう来たな。迷わんかったか?」
「こんにちは、茜さん。ええ、ゲートからほぼ一本道だったので……それよりわざわざ表で待っててくれたんですね」
「そりゃ、大事なお客様やからな……なんて、ほんまは今日は仕事がすくのうて暇やったんよ。発注した商品の到着待ちの時期やからな~」
「なるほど……」
「まぁ、立ち話もなんやし入り、ウチの部屋まで案内するわ」
建物の前で待ってくれていた茜さんと軽く言葉を交わして、そのまま茜さんの案内で建物の中に入る。中はなんというか中小の卸業者の事務所って感じの雰囲気で、商会員らしき人たちが動き回っているのが見えた。
「おや? 会長が異性を連れ込むなんて……ついに、会長にも縁が巡ってきたんですね。奇跡でしょうから、手放しちゃ駄目ですよ」
「変な勘違いするなや、客や客……ておい、なにが奇跡や? 言っとくけどウチが色恋と縁がなかったんは、仕事に力入れとったからで、その気になればそらモテるんやからな? ウチの魅力ヤバいやろ?」
「……異世界の男性って凄い趣味してるんですねぇ」
「……お~い、お前ら! このアホがトップを弄れるぐらい暇みたいやから、山ほど仕事押しつけたれ!」
「あ、ちょっ、会長!?」
「快人、こっちや」
建物内に入ってすぐ受付らしき女性が話しかけてきて、茜さんと軽口を叩き合う。
「まったく、どいつもこいつも、会長に対する敬意が足りてへんと思わんか?」
「それだけ、茜さんが親しみやすいってことなんじゃないですか?」
「やれやれ、これで口先だけならさっさとクビにするんやけど、無駄に優秀なやつが多いからなぁ……」
そういって苦笑する茜さんに釣られて、俺も笑みをこぼす。アットホームな雰囲気というのか、商会の規模はあまり大きくなく、商会員も少な目ではあるが、フラウさんもそうだが家族のような気安さがあり、事務所内の空気は明るくいい雰囲気だった。
そのまま少し歩いて事務所内の最奥にある部屋に入る。中は簡素な感じで応接用のソファーが一組と、執務机が置いてあり、中にはフラウさんが居て茜さんの机の上になにかを置いていた。
「こんにちは、フラウさん……何してるんですか?」
「これは、ミヤマ様、こんにちは……ああ、いえ、新しい魔法具が届いたので敬愛する会長に体験してもらおうかと……」
「お前それ、シャワーに取りつける魔法具やろ……そこで起動させたら、机が濡れた範囲の割合分お前の給料カットするからな……ああ、快人、そっちのソファーに座りや」
フラウさんに軽快なツッコミを入れた後で、茜さんはソファーを勧めてくれたのでそちらに座る。
「快人、なんか飲むか?」
「ああ、実はそれで今回訪ねて来たと言いますか……クロの商会販売するコーヒーの新作を知り合いに宣伝してほしいと頼まれて、今回試供品を持ってきたんですよ」
「ああ、なるほど、そういうことか……そういうことやったら、せっかくやしその新作淹れよか……クロム様のところのコーヒーか、有名やけどあんま飲んだことは無いなぁ」
「あれ? そうなんですか、茜さんはコーヒー好きってアリスから聞いたんですが……」
「あ~いや、好きってかコーヒーをよく飲むんは間違いないな。ただ、コーヒーはうちの商会でも取り扱とって、クロム様のところとは別の商会から仕入れとるから、クロム様の商会のコーヒーを飲む機会があんまないってだけやな。クロム様のところのやつは、基本的に自分の商会の店舗での販売で、降ろしたりはあんまりせんからな~」
「ああ、なるほど……」
言われてみれば納得である。茜さんの商会は卸業者に近く、いろいろな商会や店舗から品を仕入れて、需要のある場所で販売するという形式が主であり、コーヒーなども仕入れ先のものを飲むことが多いのだろう。
「ふむ……この中やと、これやな。フラウ、これ淹れてくれ」
「畏まりました」
ただやはりコーヒーの知識はある様子で、試供品の香りを軽く確認してあとでひとつを選んでフラウさんに渡していたりと、詳しい感じは伝わってきた。
シリアス先輩「残るひとりは茜だったか、確かに紅茶とかよりコーヒーのイメージ」