ネオ・ベビーカステラブレンド㉖
有翼族の里の商店街……店の形が例によって独特というか、飛びながら移動する感じなのでイメージする商店街とは違うが、とりあえずいろいろな店が並ぶエリアで雑貨屋を眺めていた。
「……これはなんか、変わったブラシですね? でも、数がかなりあるってことは人気商品なんですかね?」
目に留まったのはとあるブラシだった。ブラシ自体は幅広で毛が柔らかいタイプのブラシだったが、特徴的だったのが柄部分が可変式で長さをかなり調整できるうえ、何カ所か折り曲げられるような形状になっていて……なんとなく手の届かない場所に使う用のブラシのように感じられた。
それ自体は特に気にすることもなく、そういうブラシもあるだろうなぁという感覚だが……数が非常に多い。こんな特殊なブラシがよく売れるのだろうか?
「ああ、盟友の疑問は理解できるよ。答えを示すなら、それは翼用のブラシだね」
「あ、ああ、なるほど! だからこんな感じに……背中の付け根とかに届くようになってるんですね」
アメルさんの一言で納得がいった。妙な角度をつけて使えるような形状になっているのは、孫の手を使って背中をかくように、翼の付け根をブラシで掃除できるようにということか……これは有翼族だからこその品と言えるかもしれない。
「有翼族にとって翼の美しさは重要で、皆手入れは欠かさないものだよ。翼が汚れていれば心まで汚れているという考えもあるほどだ。しかし、皮肉なものではあるが翼は世界の穢れを集めやすい。故に適度にそれを払ってやる必要があるのさ」
「ふむふむ、ちなみに並べておいてあるってことはそっちの大きなビニールみたいなのも翼に使うものなんですか?」
有翼族が翼の美しさを重視するというのは、なるほど納得できる話だ。そして空を飛ぶ際などに動かすし、羽根などにもホコリなどが付きやすいのだろう。だから翼用のブラシは必需品で、需要の高い商品というわけだ。
そういう前提で見て見ると、いまいる雑貨屋のコーナー……一見すると統一性が無いように思える品々は、翼に関する品なのではないかと考えて、アメルさんに尋ねてみた。
「ああ、それは入浴の際などに翼に被せるものだね。翼が濡れると背中に重りを乗せられているような不快感があって、それを嫌う有翼族は多い。入浴時には濡らさず、羽根を掃除する際には少量の水を吸わせた専用のブラシを使ったりするね」
「確かに有翼族の翼って大きいですし、水を吸ったらかなり重そうですね。しかも、なかなか乾くのにも時間がかかりそうですね」
「魔法を使えるものは普通に翼も洗って、魔法で乾かせばいい。ボクはそうしている……だが悲しいかな、魔導の深淵に広い扉は開かれていない。扱えるのは選ばれし者だけだ」
本当に周りに仕える人が多すぎて、定期的に忘れてしまいそうになるが、人界では魔法が使える人はあまり多くなく割合的には2割前後らしい。有翼族もその割合に当てはまるのなら、10人中8人は魔法が使えない訳で、こういった品も需要があるのだろう。
「そういえば、アメルさんの翼も艶々と輝いてるみたいに綺麗ですね」
「えへへ、そっかなぁ……そんな褒められると照れちゃうよ。でも、ボクも有翼族だから翼の手入れには拘ってるし、この色艶はちょっと自慢だね。ボクの翼は黒いから汚れとかも目立つし、かなり気を付けてるから盟友にそれをわかってもらえるのは、嬉しいなぁ――んんっ!? こ、こほん……まぁ、そんな感じだよ」
もしかしたら有翼族にとって、翼を褒められるというのはかなり嬉しい行為なのかもしれない。アメルさんも素の口調で嬉しそうにしていたし……。
ただ、お世辞とかではなくアメルさんの翼は綺麗だ。他の有翼族を見ると、翼の色は大体白色や灰色に薄い茶色なので、アメルさんの黒翼はかなり目立つ。
黒い翼は特殊個体の証らしいし、現状で有翼族の特殊個体はアメルさんだけみたいなので、黒翼はアメルさんの象徴でもあるというわけで、本人もかなり手入れには気を使っているみたいだ。
実際、俺もベルやリンの毛艶などにはかなり気を使っているし、リンの羽を柔らかいブラシで掃除することも多いから分かるが、アメルさんの翼ほどに綺麗に仕上げるにはかなり細やかな手入れが必要だし、本当に素晴らしいと思う。
まぁ、それはさておいて……翼用のブラシか……リンやベルのブラッシングに使えるものとかもあるかもしれないし、とりあえずブラシ関係は全部チェックしよう。
シリアス先輩「安定の親ばか」
???「前々から、ベルやリンのブラッシングには並々ならぬ拘りを見せてますからね、カイトさん」