ネオ・ベビーカステラブレンド㉔
アメルさんの家のカウンター席の前には大きな窓があって、有翼族の里を見ることができた。アメルさんの家自体が里の中で最も高い場所にあることもあって、全体を一望できる感じだ。
「なんか、イメージよりいろいろなものがあるっていうか、里の中に店とかも結構ありますね」
「盟友の気持ちは分かるよ。有翼族は閉鎖的な種族であることは間違いないし、文明の発展に反した生活をしているように認識されることは多い。ただ、別に有翼族は閉鎖的なだけであって他を排除するわけではないからね。普通に魔法具などの有用な技術も取り入れて生活をする。基本的に大抵の有翼族にとっての生活は里の中で完結するが、一部の商いをする者たちは外から商品を仕入れたりするわけさ」
なるほど、積極的に他種族と関わりたがることは無いが、絶対に他種族と交流はしないとかってわけでもなく、必要なときは外からものを仕入れたりということもするわけか……そういえば、アルクレシア帝国の建国記念祭にも義理立ての意味合いが強いとはいえ、毎年小規模ながら店を出してアクセサリーとかを売っていたり、リリアさんがそうしようとしていたみたいに、伝手が必要とはいえ取引などもしているみたいだ。
「まぁ、そもそも有翼族の里は見ての通り高い山にあるからね。例えば海魚などといった食材などは外から仕入れる必要がある。ボク個人としては、もっと外と関わりを持つべきだと思うが……なかなか、重ねた悠久の時というのは厄介なものだよ。それは時に思考を縛る鎖ともなりえる。鎖を断つにはそれなりに時間が必要さ……」
「長年他種族とあまり関わってこなかった人たちに、いきなりさあもっと関わりを増やしなさいって言っても難しいですもんね。アメルさんのいう通り時間をかけていくのが最善かもしれないですね」
「ああ、だが長であるボク自身が積極的に外と交流することで、少しずつ有翼族の意識も変わっているようには思える。変革に時が必要なのは変わらないが、兆しはあるね」
「確かに、アメルさんが積極的に外と関わることで、外との交流に興味を持つ人が増えそうですね。そういうことを考えて実行してるアメルさんは、流石有翼族の長ですね」
「えへへ、そっかな? 盟友に褒められると嬉し――んんっ!? 賞賛の言葉、感謝するよ」
アメルさんは結構ちゃんと有翼族の在り方を変えようと頑張ってるみたいだ。アメルさん自身がハーモニックシンフォニーの打ち上げに参加していたりとかしているのも、長である自分が積極的に他種族と交流する姿を見せることで、徐々に意識を変えていこうという考えからなのだろう。
「基本的に有翼族の里に他種族が来ることは無いんですか?」
「絶対にないとはいえない。いくつかは例外があるよ。まずは正式な手続きを経て訪問する場合。複数の里内で立場のあるものの承認が必要だし、申請手順も多い。申請したとて必ず容認されるわけではないから、なかなかに手間ではあるね」
「そういえば、前に来たときも俺を里内に入れるには手続きが複雑って言ってましたね」
「ああ、盟友の場合は創造神様の祝福を得ているから、例外ではあるね。どちらかというと盟友の場合は、もうひとつの例外、有翼族側が是非にと招待する形式に近いね。これは主に神族に対して適応される。有翼族は極めて信仰心の強い種族で、特に空、大地、海といった大自然……そしてそのすべての源たる生命神様を強く信仰している。重要な祭事のなどでは神族を招くこともあって、その場合は手続きは必要ないね」
有翼族が信仰心の強い種族というのは聞いているし、神族を招くというのは納得ができる。その場合誰が来るのかは、ちょっと気になる。エルンさんとかだろうか?
「なるほど……ちなみに誰が来るんですか? やっぱり、アルクレシア帝国を担当している下級神とか?」
「豊穣神様など、アルクレシア帝国に神殿を持つ神が来る場合もあるけど、基本的には生命神様の下につくいずれかの神族で、特定の誰と決まっているわけではないよ。基本的に神族側が決めることで、こちら側から指定することは無いけど……ああでも、大海神様はありがたくもそれなりの頻度で祭事に参加してくださるね」
「マリンさんが? ……あ~その、ひとつ質問なんですが、有翼族ってエインガナさんに関してはどう思ってるんですか?」
「大海に座す海竜? 大地揺らす竜の王の配下で幹部……以外に特になにも?」
……なるほど、マリンさんがたびたび祭事に参加している理由がよく分かった。有翼族は人族の中でも、エインガナさんを海の神のようには認識しておらず、明確に大海神であるマリンさんを海の神として信仰しているのだろう。
知名度云々をかなり気にしているマリンさんにとっては、貴重な海関連で明確にエインガナさんより己を上に見てくれる種族なので贔屓しているのだろう。
シリアス先輩「あ~なるほど、滅茶苦茶納得した」
???「有翼族はマリンさんを海の神として称えてしっかり信仰してくれるので、マリンさん的にはチヤホヤしてもらって嬉しいので、仕事や予定がない限り出来るだけ有翼族の祭事には顔を出してるみたいですね」