ネオ・ベビーカステラブレンド㉓
アメルさんに試供品のコーヒーセットを渡すと、アメルさんは興味深そうにそれを眺めた後で軽く頷く。
「盟友の心遣いに感謝を。せっかく貰ったのだし、さっそくこの漆黒の雫を淹れよう。硬き外殻を粉砕し、黒き砂漠に恵みの雨をもたらす」
保存期間の関係で試供品は粉ではなく豆の状態なので、念のためにコーヒーミルも持ってきていたのだが、アメルさんも自前のコーヒーミルを持っているようだった。
そしてアメルさんが取り出したコーヒーミルは、オズマさんやアリスが使っていたものよりかなり大型に見えた。
「おぉ、かなり大きいコーヒーミルですね。やっぱりアメルさんもいろいろ拘りがあったりするんですか?」
「……え? あ、いや……これ、フィルターセットして水と豆を入れたら自動でやってくれる魔法具……」
「あ、なるほど……便利でいいですね」
なるほど、コーヒーミルじゃなくて、コーヒーミルも一体化したコーヒーメーカーみたいなものらしい。コーヒー豆と水を入れ、所定の場所にフィルターをセットするとあとは魔法具が自動でやってくれる。
「……こういうのもあるんですね。いや、俺としてはコーヒーミルで豆の挽き具合を調整したりってほどコーヒーに拘りはないので、こういうやつの方が便利でよさそうですね」
「盟友の考えには同意できる。ボクも確かに漆黒の雫は好んで飲むが、必ずしも深く広い知見を持ち合わせているというわけではない。味が好み……あとカッコいいから……で愛飲しているので、ある程度大きな差異ならば感じ取れるが、微細な変化を感じ取れるほどにボクの味覚は鋭敏ではないんだ」
正直アメルさんの考えには滅茶苦茶共感できるというか、俺もそのタイプだ。コーヒーも好きだし、好みの味とかもある。しかし、豆から厳選して自分で好みの挽き加減にしてと手間暇かけて最高の一杯を用意しようというほどに拘りがあるわけではない。
味の違いもある程度は分かる。アリスが淹れたコーヒーとか滅茶苦茶美味しかったし、軽く感動もした。でもほんの僅かな引き加減の違いとかまで飲んで分かるかと言われれば……正直分からない。
なので、俺も自分で淹れるならコーヒーメーカーでいいなぁとは思う。というか、アメルさんが持ってるのを見て、そういうのがあるってわかったから今度自分用に買おうかと思ったぐらいだ。
「茶請けのお菓子も出しましょうか、アメルさんはなにがいいですか?」
「悩むところだね。定番であればクッキーなどだろうが、漆黒の雫は苦味の強い飲み物……となると、相反する輝きを持って対峙するのも、組み合わせとしては適しているのかもしれないね」
「確かに、甘いものがあいますよね……チョコレートとかどうです?」
「それは素晴らしい考えだ。チョコレートもまた黒き力を宿しつつも、漆黒の雫とは逆の性質を兼ね備えるもの……調和する可能性が高いね」
苦味の強いコーヒーに甘いお菓子を合わせるのは定番であり、アメルさんも賛成してくれたのでマジックボックスからチョコレートを取り出す。
ちなみにこのチョコレートは例によってネピュラ作のものであり、ニフティとかで販売している紅茶に合うチョコレートではなく、普通におやつ用として別に作ってくれたチョコレートだ。
ほどなくしてコーヒーの用意も終わったので、アメルさんの要望通りカウンター席に並んで座る。アメルさんはニコニコと楽し気であり、用意したカウンター席が活用できて嬉しいという気持ちが伝わってきた。
「さすがに漆黒の雫では乾杯とはいかないが、こうして盟友と肩を並べて席に座ること出来て嬉しく思うよ。ではさっそく、新たな可能性を試させてもらうとするか……あ、盟友も角砂糖とか必要だったらそこの使ってね」
「あ、はい。ありがとうございます」
アメルさんにお礼を言いつつも最初の一口はブラックでいこうかなぁと考えていると、アメルさんは角砂糖の入った瓶から角砂糖を三つ取り出してコーヒーに入れて混ぜ始めた。
……結構入れたな。角砂糖三つはかなり甘くなりそうだが……コーヒーを一口飲んだアメルさんは満足げな感じなので、普段からその量入れて飲んでいるのだろう。
そのままアメルさんは俺が用意したチョコレートに手を伸ばして、一口食べて目を輝かせた。
「美味しい!? 凄い、ボク、こんなに甘くておいしいチョコレートは初めて食べたよ! やっぱ、盟友は凄いなぁ、いろんな美味しいものを知って――んんっ!? 価値あるものを見出す盟友の慧眼には、いつも驚かされるよ」
「ありがとうございます。そのチョコは……」
そのまましばし、コーヒーを飲みながら終始嬉しそうなアメルさんとの雑談を楽しんだ。
シリアス先輩「実際このぐらいのレベルのコーヒー好きが一番多そうなイメージではある。もちろん喫茶店レベルで本格にこだわってるやつも居るんだろうが……まぁ、ひとつの趣味として楽しめるならとことん極めるのもよさそうな気はする」