ネオ・ベビーカステラブレンド㉒
アメルさんに運ばれて到着した有翼族の住む集落……と呼ぶには少々広いので、村とか小さな町と表現するべきかもしれない。
前に見た時は結構上空からだったので普通に家が点在しているように見えたが、家の形状もまた結構独特だった。こう、イメージとしては棒付キャンディが地面にいっぱい刺さっている感じというか、一本の柱に支えとしてかなり高い位置に居住部分がある感じだった。
パッと見てバランスも悪そうだし、地震でも来たら全部折れそうだが、その辺は魔法でなんとかしているのだろう。しかもよく見ると、その居住部分に移動するための梯子や階段といったものは存在しない。有翼族は飛べるから問題ないのだろうが……基本的に他種族の来訪は考えてない設計な感じがした。
「なんというか、結構独特な雰囲気ですよね。前に見た時も空中都市みたいな雰囲気はありましたが……」
「確かに他の種族から見ると珍しいかもしれないね。ただ、何事にも理由というものはある。有翼族は基本的に空を駆ける種だから、住居もまた舞い降りるのに適した形状をしているのと同時に、天に舞い上がる際に妨げるものが無い方が行動しやすいのさ」
「ああ、なるほど、飛び立つときに上に障害物が割り込んだりしないように、居住部分が高い位置にあるんですね」
確かに言われてよく見ると、家らしきものより高い建物は存在せず、家同士もそれなりに距離が離れていて飛び立つ際に邪魔が無いように配慮されている感じがする。
「あとは単純に有翼族は閉鎖的な種族だからね。他種族を招くことを想定していない。ボク個人として柵はいずれ壊されるべきだと思うが、まだまだ時が足りない。長く積み重なった想いを変質させるには、同等に長い年月が必要なのさ」
そういえば前に来たときも、他種族を招くにはいろいろ手続きがあってすぐにはできないって言ってた覚えがあるし、散々いろんな人から聞いたがやはり有翼族はかなり閉鎖的な種族っぽい感じだ。
アメルさんとしてはもっと他種族と交流すべきという考えっぽい感じだ。実際アメルさんはハーモニックシンフォニーの打ち上げに参加していたりと、結構積極的に他種族と交流しようという意思はある。ま、まぁ、その中二っぽい言い回しのせいで上手く交流できてない部分も多いのだが……。
「ちなみに、アメルさんの家は?」
「ボクは有翼族の長だからね。最も天に近い場所に住処はあるのさ、つまりあそこだ。さっそく向かうとしよう」
有翼族の長であるアメルさんは、最も天に近い場所……つまり有翼族の住処である山の中で、もっとも高い場所に住居を構えている……まぁ、要するに山の頂上にある家がアメルさんの家である。
外見は……普通だ。他の有翼族の家よりは二回りほど大きいが、外観的には普通……もっと中二チックなデザインかと思ったが、そんなことはなさそうだ。
内装に凝っているタイプかもしれない。
「さぁ、盟友よ! ようこそボクの混沌の庵へ!」
「お邪魔します……おぉっ……」
中に入ってみると以外にも黒一色だとかそんな感じではなく、むしろカッコいい路線だった。家具などは若干暗めの色合いが多いが、木造りのカウンターがあったり、どことなくお洒落なバーのようなイメージで整えている感じがした。
「お洒落でカッコいい雰囲気ですね。家具とかも統一感がありますし、あのカウンターもカッコいいですね」
「本当!? よかった! 盟友が気に入ってくれて嬉しいよ! あのね、あそこのカウンター席は最近作ったんだよ。盟友の家に遊びに行った時に家の中にバーがあるのが凄くカッコよかったからそんな雰囲気で作って、あそこで景色を見ながら飲み物を飲むんだ! 席も、盟友が来たときのためにふたつあるから、あとで一緒に――んんっ!? の、後ほど盟約について語り合おう」
俺が内装を褒めると、アメルさんは目に見えて嬉しそうな表情を浮かべてウキウキと楽し気に説明をしてくれた。途中で素に戻っていることに気付いて、慌てて顔を赤くしながら言い直すのもアメルさんらしい。
「それは楽しそうですね。ちょうど、アメルさんに渡そうと思ってた……コーヒーの試供品があるので、それを飲むのもいいかもですね」
「漆黒の雫を? 試す品ということは、いずれどこかから世に放たれるということかい?」
「ええ、クロ……冥王の商会から販売されるみたいですよ。アメルさんはコーヒーが好きだと聞いたので、丁度いいかなぁって」
「なるほど、確かに漆黒の雫は好んでいる。ボクもまた漆黒を纏うものだからこそ、強く惹かれ合うのかもしれないね……砂糖入れないと飲めないけど……」
最後の方になんだか小声で付け足しつつも、終始アメルさんはご機嫌な感じで、俺が遊びに来たのを本当に喜んでくれているのが伝わってきて、こちらも楽しい気分になれた。
シリアス先輩「なるほど、これは漆黒のポメラニアン……」