ネオ・ベビーカステラブレンド⑳
クッションの海に寝転がっているというのはなんとも不思議な気分ではある。大きなクッションに寝転がってるのとも違い、かといって布団に寝ているのとも違う。文字通り大量のクッションに埋もれているというか、そんな表現がしっくりくる感じだ。
フェイトさんは非常にご機嫌な様子で俺に抱き着いており、途中でフェイトさんの要望もあって俺がフェイトさんの頭の下に手を入れる……いわゆる腕枕のような形になっている。
本人は全然気にせず甘えてきている感じなのだろうが、こちらとしてはフェイトさんの柔らかい体の感触が伝わってくるし、本人物凄く無防備だしで結構大変である。
いや、これでフェイトさんがいわゆるそういう方向性のアプローチをかけてきていたりというのであれば、それはそれで反応の仕様もあるのだが……実際のところフェイトさんはこれ、通常運転である。
「そういえばさ、カイちゃんは今日はなんで神界に来たの? シャローヴァナル様のところに行ってたとか?」
「ああいえ、シアさんにクロの商会で新発売するコーヒーの試供品を届けに来てたんですよ。クロから、知り合いにコーヒー好きが居たら宣伝してほしいって頼まれてたので……」
「あ~なるほど、クロりんは相変わらずいろいろやってるねぇ~」
そう、このように腕枕をされて全身で抱き着いて密着しているという状況で、別に色っぽい話になるわけでもなく通常の雑談をスタートさせる程度には、フェイトさんは通常運転である。
というか、恋人になってから確信したがフェイトさんは基本的にスキンシップが多い。恋人になる前もそういえば抱き着いてきたりというのは多かった気もするが、恋人になってからはそれが一気に増えた感じだ。
だいたい俺と一緒にいるときはいまのように密着しているか、俺の膝を枕にして寝転んでいるか、背中におんぶのように乗りかかってきているかのどれかであり、好きな人とは密着していたいタイプっぽい。
それはそれで非常に可愛らしいのだが、不意打ちでドキッとさせられることも多いのは少し大変だ。
「ちなみにフェイトさんは、紅茶とコーヒーだとどっちが好きですか?」
「う~ん、私ってそもそもあんまり飲まないしね~。いや、別にどっちも嫌いとかじゃないけど……用意されてるのは飲むけど、自分で用意するのは面倒だしね」
「それはなんともフェイトさんらしいですね」
「でも、私には運命の権能があるから淹れるのは上手いと思うよ。いや、淹れたりしたことは無いんだけど……ほら、初めてでもクッキーとかも上手く作れたしね。私はやればできるんだよ……やらないだけで」
「それを自分で言うのはなんとも……でも、事実やればできるんですよね」
実際フェイトさんの言う通り、フェイトさんはやれば基本的になんでもできるが、やらないだけである。仕事に関してもそうで、先程のようにほんの数分ですべての仕事を片付けられるほどの能力があるが、普段はまったくやろうとしない。
1~2分頑張って、あとはだらけておけばいいとも思うのだが、極度の面倒くさがりのフェイトさんはその1~2分すら頑張ろうとはしない。脱走してクロノアさんに追い回されているほうが手間だとは思うのだが、それでもしない。
「ま~カイちゃんにならいつか淹れてあげるよ~気が向いたらね」
「それは楽しみですね。気が向く日が来るかどうかはさておいて……」
「ん~たぶん来ると思うよ。他はともかくカイちゃんに関わることだと、私結構頑張るからね。ふへへ、やっぱ好きな相手には何かしてあげたくなっちゃうのかもね~」
そう、そんな極度の面倒くさがりのフェイトさんにも例外がふたつある。ひとつは絶対の存在であるシロさんに関わること……フェイトさんは本人が言っていたように、シロさんに仕えてさえいれれば最高神じゃなくても問題ないという感じなので、シロさん関連の時は真面目に動く。まぁ、これに関してはフェイトさんというよりは神族全員がそうだろうが……。
そしてもうひとつは俺が関わることだ。クロノアさんやシアさんに大きな影響を与えた、フェイトさんがある程度定期的に仕事をするというのも、クロノアさんに俺とふたりきりの時間を邪魔されたくないという理由からだ。
それに、前にクッキーを作ってくれたこともあるし、気まぐれで本人の言う通りあくまで気が向いたらではあるが、自主的になにかをしようとしてくれたりもする。
それはフェイトさんなりの愛情表現のように感じられて、なんというか嬉しかった。
「ねね、カイちゃんは今日はもう予定ないんでしょ?」
「ええ、ないですね」
「じゃあ、たっぷりふたりでのんびりできるね~いっそ泊ってってもいいからね」
「そうですね。それも楽しそうですし……なんかこうして、なにもせずにのんびりってのもいいですね」
「ね~やっぱダラダラはいいよね~。あっ、そうだ……カイちゃん、カイちゃん」
「はい?」
「ちゅっ……」
「ッ!? ちょっ、フェイトさん、いきなりなにを!?」
「いや、なんとなくキスしたくなったからだね!」
不意打ち気味に顔を寄せて、俺の唇に自分の唇を重ねた後、フェイトさんは特に気にすることなくゆるい笑顔を浮かべていた。
本当に気まぐれというか、時々衝動的に行動するのでびっくりするが……やっぱりなんだかんだで、フェイトさんと過ごす時間は楽しいなぁと、そんな風に感じた。
ドクターM「……えっと、なんだっけ?」
シリアス先輩「全治3話ぐらいって言って! 頼む!!」
ドクターM「なんかシリアス先輩は糖分過多で全治3話らしいよ……それなら仕方ないね。早く回復するように、3話分みっちり愛しい我が子の話を聞かせてあげて……」
シリアス先輩「治った!! 治ったから、大丈夫! その治療は無しで!!!」
ドクターM「え? あ、そうなんだ。まぁ、治ったなら治療は無しだね。じゃあ、治療とは関係なく愛しい我が子の話を……」
シリアス先輩「……え? ちょっ……」