ネオ・ベビーカステラブレンド⑰
そんなわけでライフさんとエルンさんと少しお茶を飲みながら雑談することになった。ライフさんに促されて椅子に座ると、ライフさんはそのままエルンさんに告げる。
「豊穣神、お茶の用意を……ミヤマさんに出すに相応しい一杯を用意しなさい」
「ひんっ、なんで最後にとんでもない一言付け加えるんですか……が、頑張りますけど……」
ライフさんにしてみればエルンさんなら俺が満足できる一杯を淹れられると確信した上での言葉なのだろうが、エルンさんにしてみればシロさんの祝福を受けた俺に対して最高の一杯を入れるようにと滅茶滅茶にハードルを上げられたようなもので、明らかに青ざめた顔になっていた。
それでも、ライフさんが己を信頼しているというのは分かっているのかプレッシャーを感じつつもしっかりと紅茶を淹れて、俺の前に置いた。
「どうぞ、お口に合うといいのですが……」
「ありがとうございます」
いや、もの凄く覚悟を決めた……審判を待つみたいな顔をしているエルンさんには申し訳ないのだが、俺にはそんな紅茶の味の違いとかあまり分からない。いや、紅茶ブランドを立ち上げたりそれなりに紅茶は飲んできてるとは思うが、細かな味の違いが分かるほどではない。
「……美味しいです」
「ほっ……よかった」
実際にエルンさんの淹れた紅茶は美味しかったのでそのまま感想を伝えると、エルンさんはほっと胸を撫でおろして、茶請けのクッキーを出してから席に座った。
「エルンさん、俺は確かにシロさんの祝福を受けてますけど……別に俺自身が物凄いとかでもなくごく普通の人間なので、あんまり畏まらなくても大丈夫ですよ?」
「なるほど、ごく普通の人間……ごく普通の……どうしましょう……私の知ってる普通と違う……」
「豊穣神、ミヤマさんはあまり畏まった仰々しい対応を好む方ではありません。貴女にもっと気楽に接してほしいという思いがあるのでしょう」
「な、なるほど、そういうことなんですね」
「ええ、ですが、むろん限度というものはあります。ミヤマさんの望むように気安く接しつつも、畏敬の念を忘れないようにしなければなりません。むろん、貴女であれば……問題なくこなせますね?」
「はひっ、が、頑張りましゅ……」
なんだろう、いろいろと突っ込みたい部分はあるが……とりあえず俺が普通の人間という部分に関しては、双方ともに受け入れてはいないようだ。
ま、まぁ、若干エルンさんに圧がかかっているような気がしないでもないが、とりあえずライフさんがこちらの意図を読み取ってくれたみたいで、エルンさんにもう少し気楽に接するように言ってくれたのはありがたかった。
「そういえば、エルンさんはアルクレシア帝国に神殿を構えてるんですよね?」
「ええ、私はいちおう首都に神殿を構えています。アルクレシア帝国の担当で言えば、もうひとり狩猟神が居るのですが、そちらは首都ではなくアルクレシア帝国で二番目に大きな交易都市に神殿を構えていますね」
「なるほど、そういえばシンフォニア王国も首都に神殿があるのは健康神さんですが、他にも担当が居るんですよね?」
「ええ、シンフォニア王国ですと健康神と法律神ですね。ちなみにハイドラ王国だと恋愛神と自由神が担当です」
「ただ、この場合の担当というのはその国に神殿を構えているという意味合いになるので、それ以外にも人界の祭りなどに下級神が来賓として参加することがありますが、その際には主に各国を担当している最高神の部下から選んでいる形です。新年に王族に対して上級神が祝福を行う際もそうです。そういう意味合いであれば、私の部下はすべてアルクレシア帝国の担当と言えなくもないですね」
そういえば最初にこの世界に来て祝福を受けに行った際に、毎年王城に上級神が着て王に祝福を行うって聞いた覚えがある。
「まぁ、最近では神族が仕事以外で人界を訪れることも増えましたし、元々人界に神殿を構えている私はいろいろ聞かれることも増えましたね」
「エルンさんは優しそうな雰囲気ですし、相談とかしやすそうなイメージだからかもしれませんね。いや、単純に人界慣れしているってのもあるでしょうけど」
「ははは、そういってもらえると嬉しいですね。ミヤマさんも近くに来られることがあれば、気楽に私の神殿に立ち寄ってください。いつでも、歓迎しますよ」
「ありがとうございます、機会があればぜひ」
そういって穏やかに笑うエルンさんからは本当に人の好さが伝わってくるようで、癖のない性格も相まってホッとするような雰囲気の方……癒し系のイメージだ。
実際、あんまり神族の神殿に足を運んでことはないし、今度アルクレシア帝国の首都に行くことがあれば立ち寄ってみるのもいいかもしれない。
シリアス先輩「タイトルのコーヒー全然関係ないことに関しては、もはや何も言うまい……何も言わないから……次フェイトのところ行くんでしょ? ……私席外しちゃダメ?」