ネオ・ベビーカステラブレンド⑯
唐突な呼び出しから15秒、青ざめた顔で駆け込んできた豊穣神さんを見て、ライフさんは満足そうに頷いた。
「よく来ました、豊穣神。しっかりと指定した時間内に到達するのは、流石ですね」
「……ど、どうも……そ、それでご用件はなんでしょうか?」
「ミヤマさんが、貴女と交流を持ちたいと希望しています。簡潔に自己紹介をしなさい」
「はえ? あっ、なるほど、そういう……了解です」
ライフさんの言葉に一瞬キョトンとした豊穣神さんだったが、すぐに視線を動かして俺がいることに気付き、納得した様子で頷いた。
そして俺の前までやってくると、優し気な微笑みを浮かべて軽く頭を下げる。
「こうして直接お話しするのは初めてですね。豊穣神エルンと申します。人界では、主にアルクレシア帝国の担当をしています下級神です」
「初めまして、宮間快人です。今回は急にお呼びたてするような形になってしまって、申し訳ない」
エルンさんは、フワッとした柔らかそうな髪質の長い茶色の髪を緩く纏めた女性で、見た目や雰囲気から人の好さが伝わってくるというか、凄く優しそうな雰囲気の方だった。
身長的には150㎝ぐらいで、やや低めの身長だが胸が大きくプロポーションも抜群で、つい視線がそちらに向いてしまいそうになってしまう。
ともかく総括してフワッとした雰囲気の、優しそうなお姉さんという感じの印象だ。
「どうか気にしないでください。私もミヤマさんとはいつか是非お話をしてみたいと思っていましたので、こうした機会に恵まれて嬉しく思います」
「豊穣神は性格、能力ともに極めて優れていて私も重用している存在です。下級神の中で唯一私の神殿に自由に出入りすることを許していますし、それだけの価値がある存在だと思っています。直属の部下に加えたいほどですが、豊穣神にはシャローヴァナル様よりアルクレシア帝国を担当するという重要な役割が与えられていますので、そういうわけにもいきませんね」
「ひんっ……光栄な限りですが、もうちょっと呼び出しとか配慮していただけたら……い、いえ、生命神様が私にできなことを要求してこないのは知っていますが……毎回ギリギリを攻めてくるというか、もう少し手心的な……」
「うん? なんですか?」
「な、なんでもないです!?」
力関係の差をヒシヒシと感じるやり取りだが、ライフさんはエルンさんをかなり絶賛しているというかべた褒めだった。
それと前後のやり取りでなんとなく察したのだが、ライフさんは評価している相手には厳しいというか、自然と厳しくなるタイプなんだと思う。
少し前の30秒の呼び出し猶予に関しても、エルンさんなら問題なく来られるであろう時間を指定しただけなのだろう。だが、なにかを要求する際に、エルンさんがかなり頑張れば達成できる基準に定めて要求するので結果的に厳しく見えるという感じだろう。
エルンさんの方もそれは分かっているみたいで、ライフさんに高く評価されているのは嬉しく思いながらも、毎回大変なのでもう少し容赦してほしいというような感じだった。
「カイトさんに時間があるようでしたら、少し座って話をしませんか? 現状では豊穣神と自己紹介をしただけの状態ですし……」
「それはありがたいですし、俺も時間は大丈夫ですが……エルンさんの方は大丈夫ですか?」
「え? 私ですか?」
「はい、なにか都合が悪かったりしたら無理はしなくて大丈夫で……うん?」
エルンさんの都合が悪いなら断ってもらっても大丈夫と言おうとしたのだが、なぜかエルンさんはキョトンとした……「なぜそんなことを聞いてくるのか分からない」という感じの顔をしていた。
「……あの、生命神様? この場合において、ミヤマさんが希望していることに関して、私の都合がなにかしらの影響を及ぼすことなどあるのでしょうか?」
「ありませんね。シャローヴァナル様の祝福を受けたミヤマさんの要望以上に優先すべきなのは、シャローヴァナル様からの直接の命令のみであり、それ以外の事情は比較に値しません。ですが、ミヤマさんは非常に心優しい性格をしていますので、貴女を慮ってくれたのでしょう」
「なるほど……いや、立場的に私よりミヤマさんの方が遥かに上なので、戸惑ってしまいました。ミヤマさん、お気遣いとても嬉しく思います。私の都合に関しては問題ありません。あっ、特にミヤマさまの要望があるからというわけではなく、本当にこれといった予定はありませんので、ミヤマさんのご希望のままに……」
「そういうことでしたら、せっかくですし少しお話をさせてもらえると嬉しいです」
なんだかんだでライフさんの部下だけあって、考え方もライフさんとある程度似ている様子だった。ライフさんもどこかおっとりした雰囲気とは裏腹に、シロさんへの忠誠心は最高神の中でもかなり高い印象なので、エルンさんも似た感じの価値観なのかもしれない。
まぁ、なんにせよ雑談をしたいとは思っていたので、なんだかんだでこの機会はありがたい。
シリアス先輩「なるほど、期待もしているからこそ厳しい感じなのか……でも発言自体はべた褒めだったし、最初に来た際にも流石っていってたし実際エルンのことはかなり高く評価してる感じがする」