番外編・虚ろなる幻影
ちょっと次話に苦戦しているので、息抜きに番外編です。
それはある日のことだった。遊びに来ていたクロとのんびり雑談をしていたのだが、ふとクロがなにかを思い出した様子で別の場所に向かって声をかけた。
「そうだ、シャルティア、ちょっといい?」
「はいはい、なんすか?」
「特許関連でいくつか追加でお願い。こっちは無料公開して、こっちのは使用料を取ってほしい」
「了解ですよ」
クロの呼びかけで姿を現したアリスに対し、クロはいくつかの書類を渡す。そういえば、クロの持っている特許とかはアリスが管理しているという話を聞いた覚えがある。
その代わりに使用料の何割かを貰っており、アリスにとっては大事な収入源のひとつだろう。
「……はぁ、けど本当にカイトくんが居ると、シャルティアと簡単に連絡がつくから助かるよ」
「うん? 前までは連絡をつけるのが大変だったのか?」
「うん……本当にね! シャルティアは特定の拠点とかなくって、すぐに姿をくらませるし、確実に会えるのは勇者祭ぐらいで、それ以外のタイミングで用事があるとまずシャルティアを探すところから始めないといけないんだよ!」
どうも、思った以上に苦労していたらしく、俺の言葉を聞いたクロはグッと拳を握り締めながら話す。クロがここまで明確に不満を口にするのも珍しいというか、本当に大変だったのが伺える。
「ちなみにその場合って、どうやってアリスに連絡をつけてたの?」
「幹部の十魔の子たちは、唯一シャルティアに直通で繋がる魔法具を持ってるから、十魔の子たちを訪ねて連絡を取ってもらう形だね。でも十魔の子たちもあちこちに散ってたり潜伏してたり、場合によっては任務で居なかったりするから、それも中々に手間だったりするんだよ」
「あ~なるほど……」
「しかも何がひどいって、シャルティアは当然ボクがシャルティアに用事があって探してることも、なんならその要件まで分かってるんだよ。なのに、ボクの方から連絡するまで連絡してこないからね……意地が悪いよね!」
なんというか、思った以上にクロには不満が溜まっていたっぽい感じである。アリスもどことなく気まずそうな……というか、クロの矛先が自分の方に向かないようにと目を逸らしてる。
いや、矛先は最初っからばっちりアリスに向いてるんだけど……話を聞いてるのが俺なので、クロは現在こちらに向かって話している。
「しかもだよ、ボクの方に特に用事がない時はシャルティアってよくフラッと遊びに来たりするんだよ。でも、ボクがなにか用事ある時は全然来ないし……というか、シャルティア……あれワザとやってたよね? ボクが探してる時に出てこないのは、絶対ワザとだったよね?」
「……いや~そんなことは無いっすよ。単純にアリスちゃんはとても忙しくて、なかなかこっちから接触できなかっただけですよ」
「……ふ~ん……ねぇ、カイトくん、ワザとかワザとじゃないかどっちだと思う? 直感でいいよ」
「クロさん、やめてくれません? その、なんとなくで正解だしそうな方に話振るのは……」
なんかアリスの方に話を振ったかと思うと、俺の方にも意見を求められた。う~ん、直感でか……。
「……う~ん、根拠とかは全然ないけど、半々じゃないかな? 本当に忙しい時も会ったけど、からかい半分とか悪ふざけで姿を現さない時もあったような……いや、本当にただなんとなくだけど……」
「ふむふむ、そっか~シャルティア……半分は、ワザとだったんだね?」
「クロさん、落ち着いて考えましょう。カイトさんは適当に言っただけですよ? 何の根拠もないじゃないですか、エビデンスも出さずにそれは酷いと思いませんか?」
「エビダンス?」
「面白間違いしないでください、頭に思い浮かべちゃうでしょ……エビデンスですよ、エビデンス。いわゆる裏付けとかそういう意味の言葉です」
まぁ、やっぱりというかなんというか、クロとアリスは仲がいいみたいでどこか漫才じみた流れで話が進んでいく……もっとも、アリスは冷や汗を流してなんとか誤魔化しきろうとしてて、クロはそれを逃すまいと鋭い目をしてるのだが……。
「う、う~ん、まぁ、確かに根拠とか証拠はないわけだし、それで一方的にシャルティアに悪意があったって決めつけるのは強引かなぁ……」
「そうでしょう、そうでしょう! 私とクロさんの友情に、そんな適当な理由でヒビを入れるなんて間違ってますよ! カイトさんはあくまで直感で適当に言ってるだけなんです」
「そっか……」
「……」
「……」
「……でも、正解なんでしょ?」
「……まぁ、マジで当ててきたなぁって驚くぐらいには、バッチリ正解で――あいだっ!?」
どうも俺が適当に直感で言ったことは本当に当たってたみたいで、ウザさの凄いテヘペロ顔になったアリスの頭に、クロの拳骨が落とされた。
シリアス先輩「快人がいる場合は、雑貨屋に確定で分体を置いてるし、そもそも常に快人の護衛に付いてるので簡単に見つけられるってわけで、クロにとって本当に楽になったんだろうなぁ」