ネオ・ベビーカステラブレンド⑫
シアさんの予定を確認してやってきたのは神界の中層……上級神たちの住む階層であり、意外と足を運ぶ機会のない場所だ。
白神祭の会場になったりはしていたが、俺が普段訪れるのは上層か神域なので中層に来る機会は少ない。中層の広さに対して上級神の数は少ないので、かなり広々と贅沢に土地は使えるみたいで、上級神は思い思いの場所に神殿を建てたりしているらしい。
ただ、シアさんは本来であればフェイトさんの直属の上級神であるため、他の直属の上級神と同じく上層に神殿等を作る権利があるのだが、本人が好んで中層に住んでいるらしい。
神界の転移場所として登録していたのが上層だったので、上層で待ち合わせをしている。転移してたどり着くと、そこにはすでにシアさんの姿があった。
「こんにちは、シアさん」
「ん? ああ……よく来たな」
最近の進展というか主にフェイトさんの仕事事情が改善されてから、シアさんは俺と会っても舌打ちをしなくなったので、好感度は上がっているらしい。
というか、フェイトさんが仕事をするようになってから明らかに俺に対しての態度が軟化しているというか、好感度の上昇をヒシヒシと感じる。逆にそれまではよっぽどフェイトさんに苦労させられてたんだろうな……前は俺に非があるわけではないと理解しつつも、自分の苦労を考えると面白くないみたいな感じだったし……。
「ハミングバードでも伝えましたが、これがクロの商会の試供品です」
「わざわざ悪いな、ありがとう……まぁ、長々と立ち話もなんだ。私の家に移動するか」
「はい。シアさんの家は中層にあるんですよね?」
「神殿はいちおう上層にあるが、そこは仕事用って感じだな。休憩用のプライベートな空間は中層に作ってる。私は神族だから睡眠はしないし、寝泊まりする場所というわけではないし以前はあまり使ってなかった……使う余裕がなかったともいえるが……」
以前はフェイトさんがサボりまくるため、シアさんはほぼ常に仕事に追われている状態だった。しかも俺が現れてからは、フェイトさんが俺に会いに行くという名目で前にも増して神界から脱走するようになっていたのでシアさんに負担が全部いっていた。そりゃ、初対面の時に俺に文句のひとつでも言いたくなるだろう。
「そう考えると、いまはだいぶ余裕があるんですね」
「ああ、いや、本当に運命神様が定期的に仕事をしてくれるというだけで全然違う。むしろ最近は時間に余裕がありすぎて、家具を揃えたり家の内装なんかもいろいろ弄ってるな。いや、本当にお前のおかげだ……心から感謝してる」
「むしろ、それまではどれだけ酷かったんだって感じですが……ま、まぁ、よかったです」
本当に苦労してたんだろうなぁとは思う。俺への対応の軟化具合から見ても、ひしひしとそれまでの苦労が伝わってくるようだった。
シアさんの転移魔法で移動してたどり着いたのは、小さめの家だった。ひとりで住むには十分な広さではあるが、シアさんの立場で考えると小さすぎるサイズだが……まぁ、仕事用の神殿が別にあるということなので、私生活用としてはこれで十分なのかもしれない。
「……というか、神界の他の建物とは雰囲気が違いますね。木造りですし」
神界の家は石造りというか、白い大理石っぽいというか……神殿と聞いて頭に思い浮かぶようなイメージの建物が多い……というかほぼそんな感じだ。
対してシアさんの家は木造りの家であり、中もどことなく生活感あふれる雰囲気で、神界では結構珍しいのかもしれない。
いや、まぁ、俺はそもそも神族の住んでいるところというと最高神の神殿と神域しか知らないが……。
「まぁ、私は神族の中でも変わり者だからな。いまは神族も割と人界や魔界に足を運ぶようになったが、以前はほぼ私だけだったしな……今後もう少し時間が経てば、私みたいな家を作るやつも出てくるかもしれない」
「なるほど、神界も変化してる最中ですからね……」
そう語るシアさんの表情は少し嬉し気で、神族たちが変化しているのを喜んでいるように見えた。
シリアス先輩「確かに目に見えて快人への態度が軟化してて、好感度の上昇を感じる」