ネオ・ベビーカステラブレンド⑩
コーヒーの試供品を渡すついでに遊びに行ったオズマさんの家から帰ってきたあとで、俺はアリスからもらったリストを眺めていた。
試供品にも限りがあるので全員回るというわけにはいかないが、せっかくアリスからもらったわけだしコーヒー好きの人には渡しに行きたいものだ。
シアさんは確定として、あとはリストの上の方に居る人に……おや?
眺めているとリスト内に、少し意外な名前を見つけた。アリスに貰ったこのリストは俺の知り合いの中でコーヒーが好きな人が書かれており、大抵の相手は見ればなるほど確かにコーヒーが好きそうだって感じなのだが、中にはあまりコーヒーを飲むイメージの無い意外な人物もいる。
位置としてはリストの真ん中より下あたりで、普段からよくコーヒーを飲んでいる人たちの範囲には入っていないのだが……まぁ、今度会う機会にでも聞いてみよう。
そんな風に考えつつ、俺はシアさんを含めた試供品を持って行こうと思う相手にハミングバードを飛ばして、予定の確認を行っていった。
気が付くとそこは緑豊かな高原っぽい雰囲気の場所だった。俺が立っている場所は木造りのテラスのようになっているが、それ以外は芝生のような草が生えており、爽やかな風が吹いていて心地よい。
「我が子! 母だよ!!」
「こんにちは、マキナさん……マキナさんとして活動できる体を用意しても、夢の中で会うのは継続なんですね」
「ここの方がね、自制しやすいというか……いろいろ自分に制限かけられるから安心なんだよね。あとここだと、愛しい我が子を独り占めできるしね!」
もう何度も体験しているので、いまいるのがマキナさんの用意した一種の夢の中であるというのにはすぐ気付けた。というか、結構な頻度で来ているので慣れたというのが正しいかもしれない。
ちなみにこの空間は屋上だったり河原だったり、その時々……というかたぶんマキナさんの気分によってコロコロ変わる。まぁ、小旅行してるみたいで結構楽しい、夢とは思えないほど風とかの感触もリアルだし……。
「……そういえばマキナさんに聞こうと思ってたんですけど、アリスから貰ったコーヒー好きのリストの真ん中ぐらいにマキナさんの名前があったんですが……コーヒー好きなんですか?」
そう、アリスから貰ったリストの中にマキナさんの名前があったのだが、俺のイメージとしてマキナさんがコーヒー好きというのは少し意外だったので尋ねてみた。
するとマキナさんはなにやら難しい表情を浮かべて腕を組む。
「う~ん……どう答えたものかな……判断に迷うところだね」
「うん? どういうことですか?」
「いや、えっと……私はカフェオレとかキャラメルラテとかが好きなんだよ。だから広い意味で言えば、コーヒー好きと言えなくもないかもだけど……普通のコーヒーを飲むことはほぼないのに、コーヒー好きって言っていいものかと……」
「あ~なるほど、確かにそれは難しいところですね」
カフェオレやキャラメルラテもコーヒー飲料と言えばコーヒー飲料だ。紅茶よりそういった飲み物を好んで飲むなら、マキナさんのいう通り広い意味ではコーヒー好きかもしれない。ただ微妙なところではある。
「だよね。まぁ、強いて言えばコーヒー好きと言えなくもないかも……ぐらいかな? はい、キャラメルラテ」
「あ、ありがとうございます」
苦笑を浮かべながらマキナさんは手元にキャラメルラテを出現させて渡してきた。大手コーヒーチェーン店とかでよく見る感じのカップに入っており、一口飲むと甘い味わいが口の中に広がる。
「そもそも、私って神になるまでの間はほぼミネラルウォーターしか飲んだことなかったし、単純に飲んだことある飲み物自体も少ないんだけどね」
「なんか、マキナさんって割と凄い過去ですよね。食事も缶詰とか軍用レーションでしたっけ?」
「うん。いまになって思えば酷い食事だったけど、当時はアレしか知らなかったら別にどうとかは思わなかったね……あ~でも、私は結局コーラの方が好きかも?」
「ふむ、やっぱりそれはハンバーガーと相性がいいからですか?」
「うん。やっぱハンバーガーにはコーラだよね! いやオレンジジュースとかを飲む子を否定してるわけじゃないけど、個人的にはやっぱコーラの組み合わせがいいなぁ……そういえば、愛しい我が子にはあまり馴染みが無いかもしれないけど、オーストラリアのバーガーショップだと……」
そのままどこか楽し気にハンバーガーの話をするマキナさんを見て、俺は苦笑しつつキャラメルラテを飲んだ。本当にマキナさんは、暴走さえしてなければ明るく楽しい人なんだよなぁ……いや、本当に、暴走さえしなければ……。
シリアス先輩「でもなんだかんだで、前と比べてマキナに対する好感度は上がってる気がする」