ネオ・ベビーカステラブレンド⑦
オズマさんとの待ち合わせであるメギドさんの居城前に辿り着くと、すでに入り口にオズマさんの姿があった。まだ約束の時間までは15分以上あるが、タバコを吸いながら待ってくれていたようだ。
「やぁ、ミヤマくん、いらっしゃい」
「こんにちは、オズマさん。待たせてしまってすみません」
「いやいや、おじさんが早く来すぎてただけだから気にしなくて大丈夫だよ。まぁ、立ち話もなんだから移動しながら話そうか」
「あ、はい……メギドさんに一言挨拶とかしなくて大丈夫ですかね?」
早速移動しようとするオズマさんに尋ねる。いちおうメギドさんの居城に関しては、待ち合わせの場所に使っただけで特にメギドさんと約束とかはしていない。
しかし、居城前に来ておいて挨拶も無しというのも失礼じゃないかと思って尋ねると、オズマさんは軽く微笑みながら口をひらく。
「ああ、旦那は今日は出かけてて留守だから大丈夫だよ。前の船上パーティの時に展示されてた美術品に感心してたみたいだし、彫刻とか作ってるんじゃないかな?」
「あ~そういえば、前にシンフォニアの北区画の芸術広場に来てたことがありましたね」
「シンフォニアの芸術広場は結構有名だね。あとはハイドラ王国にも似たような場所があって、こっちも若い芸術家には人気の場所だね。首都ではなくて別の都市だけどね」
ハイドラ王国は先進的なものを好む国風で、芸術品などもかなり挑戦的なものが多い。前衛芸術とでもいうのか、俺にはよくわからなかったがどこか現代アートとかに近い雰囲気を感じた。
まぁ、それはともかくとしてメギドさんは不在みたいなので、それならば直接オズマさんの家に向かって問題はなさそうだ。
「オズマさんの家って、ここから近いんですか?」
「ああ、えっと……あそこに小高い丘が見えるかな?」
「あ、はい……あそこにあるんですか?」
「うん。まぁ、簡単に言うとあの丘はおじさんが所有してる土地で、そこに家がある感じだね」
「なるほど……」
言ってみれば丘が丸ごとオズマさんの家の庭って感じか……それは凄い。けど、オズマさんも六王幹部にして公爵級という魔界でもトップクラスの存在なわけだし、それぐらいの土地は持っていても不思議ではない。というか、それこそ山とかを所有してても驚かない。
「けど、少し以外でした。てっきりメギドさんの居城に住んでるのかと思ってました」
「アグニちゃんとかバッカスくんは居城に住んでるね。ただ、おじさんはのんびりしたい時とかは静かなほうがいいし……あと、居城に住んでると旦那が『酒飲むから付き合え』的な事いって、定期的に城住まいの子たち集めて酒盛りしてるからね」
「メギドさんらしいと言えば、メギドさんらしいですね」
「そういえば、旦那と言えば、最近は前以上にミヤマくんを気に入ってるみたいで、ミヤマくんの話が圧倒的に多いね。というか、恋愛的な意味でミヤマくんが好きとかも言ってたような……その、大丈夫かい? 止められるかは分からないけど、旦那の行動に困ったら相談してくれていいからね」
「ああいえ、それは全然大丈夫ですけど……というか、俺はオズマさんはメギドさんのことが好きなのかと思ってたんですが……」
メギドさんが以前の破壊衝動の一件以降、俺のことを前以上に気に入ってるのは知っている……というか本人が堂々と宣言してる。まぁ、クロに説教されたみたいで最初の時のようなとてつもなくストロングスタイルなアプローチは仕掛けてこなくなったので、少しほっとしてる。
それはともかくとして、俺はメギドさんの真の姿を前々から知っていたオズマさんは、メギドさんに対して恋愛感情を抱いているのではないかと思ってたのだが……俺の言葉を聞いたオズマさんは、突然宇宙の話を振られたかのような顔でキョトンとしていた。
「……え? それはアレかな、恋愛的な意味でってこと?」
「はい」
「……なんで恐ろしいことを言うんだ、ミヤマくん。いや、『俺』はメギド様を王と定めてガッツリ忠誠は誓ってるけど……あんな暴君みたいな方と恋愛とか、考えるだけでも恐ろしい」
なんか本当に心底嫌そうな感じである。なんなら、一人称がおじさんじゃなくて俺になってる辺り、誤魔化しの一切ない本音って感じがする。
「……おじさんは恋愛するなら絶対大人しい相手がいいよ。ほら、旦那って強引でしょ? 付き合ったりしたら絶対大変だよ……むしろ、ミヤマくんは大丈夫かい? 旦那は、本当にミヤマくんを気に入ってるみたいだし、まず止まらないよ」
「……あ~まぁ、その辺は……というか、メギドさんは俺の中では話の通じない相手にはカウントされてないというか……もっとひどい知り合いがいるので、メギドさんぐらいの強引さは別にまったく問題ないですよ」
「……強くなったね、ミヤマくん。正直おじさん、その手の関連ではミヤマくんに適う気がしないよ」
しみじみと心の底から感心した様子で話すオズマさんの言葉に、俺は苦笑を返した。
マキナ「はぁ、嘆かわしい話だよ。あの優しい愛しい我が子にここまで言わせるような、困った相手が居るとは……一度その愚か者の顔を見て見たいものだよ」
シリアス先輩「……鏡を、お持ちでない?」