ネオ・ベビーカステラブレンド⑥
クロに貰った試供品のコーヒーの宣伝に関して、オズマさんの都合などをハミングバードで聞いてみたところ、明日オズマさんの家に行くことになった。
オズマさんの家はメギドさんの居城とは別の場所にあるみたいで、俺はメギドさんの居城に転移してオズマさんが迎えに来てくれる予定だ。
あとはコーヒーが好きそうな相手というとシアさんだが、それ以外にもいたりするのだろうか?
「……私に聞けばよくないっすか?」
「いや、それは反則気味な気も……いまさらか……俺の知り合いで、オズマさん、エリーゼさん、シアさん以外にコーヒー好きって居る? あ、そもそもシアさんはコーヒー好きなのか?」
丁度アリスの雑貨屋でのんびりしていたタイミングだったこともあり、アリスが俺の心を読んだかのように告げてくる。
まぁ、確かに情報ならアリスに聞くのが一番なのは間違いない。多分俺が知らない知り合いの趣味趣向もアリスならほぼ完璧に把握してるだろう。
「カイトさんの予想通りシアさんはコーヒーが好きですね。あとはい、こちらにリストを用意してますよ。上に名前があるほどコーヒー好きです。下の方は、紅茶とコーヒーを比較すればコーヒーの方が好みだけど、別にどっちでもいいって感じの人たちですね。日頃からよくコーヒーを飲んでる人は、リストのこの辺りまでですね」
「サポートが完璧すぎる」
アリスが渡してきたリストには、俺の知り合いの中でコーヒー好きかつ俺が気付いてない相手が書かれており、いままさに俺が必要としている情報である。さすがというかなんというか、相変わらず準備がよすぎるので事前に予想していたのだろう。
そんなことを考えていると、アリスは試供品のコーヒー豆をコーヒーミルに入れて手挽きを始める。ゴリゴリと豆を挽く音と、かすかに漂ってくるコーヒーの香りがいい。
「クロはすでに淹れたのを持ってきてたから、そうやって手挽きしてるのは初めて見るな」
「まぁ、別に特に細かいこだわりが無ければ粉で買えばいいっすしね。挽きたての方が香りとかもいいので、ひと手間かけるなら手挽きするのがいいですね。自分好みのネジ調整を見付けるのもいいですよ」
「ネジ調整?」
「ものによって違いますが、コーヒーミルってのはこのハンドルの下……調整ネジを上下することで挽き方を調整できるんですよ。基本的に上に動かせば粗く、下に動かせば細かくと覚えとけばいいですよ」
「へ~」
説明しながら手挽きを終えたアリスは、透明なフラスコのような容器の付いた道具をカウンターの上に置く。
「これって……サイフォンだっけ?」
「そうですよ。まぁ、なんだかんだでサイフォンで入れるのが味がいいですからね」
「うん? その布みたいのは?」
「これはネルフィルターっていう布製のフィルターですよ。雑味が少なく舌あたりのいいコーヒーが淹れれますし、サイフォン使う場合は大体ネルフィルターです。こっちのロートにフィルターをセットして、サイフォンのフラスコに差し込んで抽出するんですよ。まぁ、慣れとかもありますし、長く抽出しすぎると苦味とかが強くなりすぎるので、初心者向きじゃないですね」
「へぇ、コーヒー淹れる器具にもいろいろあるんだな」
「ええ、他にもエアロプレス、イブリック、パーコレーター……いろいろありますし、豆との相性とかも様々ですけど……まぁ、別に美味しく飲めればなんでもいいんすよ。はい、どうぞ」
軽く苦笑しつつアリスが淹れてくれたコーヒーを一口飲むが……美味い。なんか俺の好みにものすごくぴったりマッチしているというか、ここ最近飲んだコーヒーの中で一番美味しい。
「……滅茶苦茶美味しい。なんか、俺の好みにピッタリ合う気がする」
「カイトさんの味の好み的に、中挽きよりやや粗めですっきりした味わいがいいでしょうね。クロさんのところの新商品の中ではこの辺りの豆を少し粗めに挽けば美味しく飲めますよ。ここでさりげなくコーヒーと合うカステラも茶請けに出しましょう。いやはや、流石超絶美少女のアリスちゃんは気遣いも完璧な理想的な恋人ですね!」
「はいはい」
「反応が雑じゃないっすか!? もっとちゃんと褒めてください!」
「……ちゃんと反応したら照れるくせに……いや、実際アリスは凄く気が利くし、いつも色々助けられてて感謝してるし、一緒にいて楽しいし、可愛いし、本当に最高の恋人だと思ってるのは間違いないよ」
「……あ~その……褒めすぎるのも困るというか……ほ、ほどほどで……」
「そういう感じになるから、軽めに流したに……」
やはりというべきか、ストレートに褒めたら褒めたで気恥ずかしそうに目を逸らすアリスが、なんとも愛らしくて苦笑する。
またどこかでちょっと不意打ち気味に褒めるのも楽しいかもしれないと、そんな風に考えながらアリスが淹れてくれた美味しいコーヒーを口に運んだ。
シリアス先輩「本人が恥ずかしがって茶化そうとしてるだけで、実際スペックを考えれば本当に非の打ちどころないレベルだからなこいつ……」