ネオ・ベビーカステラブレンド⑤
クロのネオ・ベビーカステラブレンドの方向性もある程度決まったようで、他の新商品と同じく再来月の発売を目指すということだった。
そして一夜明けて翌日、俺はエリーゼさんの店を目指して移動していた。コーヒー好きと言われて一番初めに思い浮かぶのはオズマさんなのだが、俺の家から近いのはエリーゼさんの店である。
というか、よく考えてみればオズマさんがどこに住んでるか知らない……メギドさんの居城って可能性が一番高いが、別のところに家を構えていても可笑しくはない。
まぁ、その辺りも含めてハミングバードで尋ねてから試供品をもって宣伝に行くつもりで、先にエリーゼさんの元に向かうことにした。
エリーゼさんは店の定休日以外は店にいるし、本人曰く滅多に出歩かないとのことなので店にいる可能性が高い。
そうしてエリーゼさんの店を訪れたのだが……。
「……げっ」
「あっ、こんにちは……臨時休業?」
丁度店の前にエリーゼさんが居て、入り口の扉に臨時休業という看板を掛けようとしているところだった。
「……相変わらずいつも変なタイミングで訪れますね、人間さん。まぁ、いいです。なんか用があるんでしょ? さっさと店に入るです」
「え? いいんですか? 臨時休業ってことは、なにか用事があるんじゃ……」
「午後から用事があって出かけるです。午前中だけ開けるのもなんですし今日一日臨時休業にするです。まぁ、なので昼までは時間あるので、人間さんの相手ぐらいできるです。面倒ごととかだったら叩き返しますが、とりあえず話ぐらい聞いてやるです」
「なるほど、じゃあ、お邪魔します」
相変わらず口調にはトゲがある……ように見せかけて、来たことに文句を言ったり追い返そうとしたりはしないあたり、なんだかんだで優しい人だと思う。
とりあえずエリーゼさんに促されて店の中に入ると、エリーゼさんが椅子を用意してくれた。
「……それで、今回はなんです?」
「実は知り合い……というか、クロ……冥王から自分のところの商会で新発売する予定のコーヒーの試供品を貰ったので、宣伝をかけておすそ分けに……」
「……冥王様の商会……コーヒー……デュアルスター商会の新作ってことですか!?」
「いや、商会名までは知らなかったんですが……その反応を見る限り、有名なんですね」
「有名どころか、コーヒーを取り扱い商会ではぶっちぎりのトップです。コーヒーショップとか大抵どこの店でも、取り扱ってる商品の数割はデュアルスター商会製ってぐらいです」
どうも俺が思ってた以上に有名な商会っぽい……いや、クロの商会はどこも各分野のトップレベルなのは知っていたが、エリーゼさんのこの食い付きは予想外だった。
「……人間さん……貴方、いい用件で訪ねてくることもあるんですね」
「いつも悪い要件で訪ねてくるみたいな言い方……」
「全部とは言わないですけど、厄介事が多いのは事実です。人間さんが意識してやってるかは別として……まぁ、その辺も含めて人間さんですね。それで、どんな新商品なんですか?」
「いくつかあるみたいで、試供品もたくさんもらいました。テーブルの上に並べますね」
新商品のコーヒーにかなり興味はある様子ではあるが、アインさんとかみたいな異様な食い付き方はしてこない。というかアレはアインさんがおかしいだけ……ジュティアさんも、紅茶関連だと結構冷静さを欠いてる気がする。
まぁ、ともかくエリーゼさんは少しテンションが上がってるかな? 程度の変化であり、あとは平常といった雰囲気だった。
「……かなり種類があるですね。シリーズとして展開するんでしょうか……まぁ、せっかくですしどれか淹れてみるです。人間さんは飲みたいのはあるですか?」
「俺はあんまりコーヒーには詳しくないので、お任せします」
「ふむ、じゃあ癖のない味のものがよさそうです……この辺りですね。じゃあ、淹れてくるからちょっと待ってるです」
「あ、はい。ありがとうございます」
エリーゼさんは店の奥に引っ込み、少しすると淹れたてのコーヒーを持って出てきて、俺の前にケーキと一緒にコーヒーを置く。
「いいもの持ってきたので、ケーキも出してやるです」
「ありがとうございます……というか抽出早くないですか? こんなに早くコーヒーって淹れてるものですっけ?」
「ああ、かなり高価ですけど時空間魔法応用して抽出時間を早める専用の魔法具があるです。私は根っからのコーヒー派ですから、コーヒー関連の魔法具は結構もってるです」
「なるほど、それは便利そうですね」
「便利ですけど本当に高いですから、買ってる人は少ないかもです。サイズも大きいので基本的には喫茶店とか店で使うのに向いた魔法具です」
エリーゼさんは、俺の向かいの席に座ってコーヒーを美味しそうに飲みながら雑談を始める。ケーキがおいてあるのは俺の前だけで、エリーゼさんの前にはない。
「あれ? エリーゼさんのケーキは無いんですか?」
「私はケーキはあんまり好きじゃないです。それは来客に出す用のケーキなので、人間さんの分だけで十分です」
「なるほど」
「……このブレンドはいいですね。癖が無くてどんなものにも合わせやすそうです」
簡潔に答えた後で、話題は新商品のコーヒーに移ったので、そのまましばらくエリーゼさんとコーヒーについて雑談をした。
シリアス先輩「来客用……エリーゼの性格を考えると、快人とアリス用ってことかな?」
???「いや、アイツは私に茶なんか出さないでさっさと帰れオーラ全開なので、カイトさん用に買っておいたケーキでしょうね」
シリアス先輩「まぁ、アリスが現れる=指令って感じで、閑話でもさっさと帰れって空気出しまくってたし、そう思えば快人に関してはまだ柔らかい対応してるのか……」