ネオ・ベビーカステラブレンド④
結構時間はかかりつつもクロが用意したコーヒーを飲み終えた。正直に言えば、違いが分からないものも多い。なにせ俺は素人なわけだし、コーヒーの微妙な違いなんて一口で分かるわけがない。
ただ、その中でも「おっ、これは……」って思ったものとか、単純に飲んだ感じが好みだったコーヒーなどを計5種ほど選んでみた。
「……俺がベビーカステラに合いそうだって感じたのは、この辺りかなぁ~」
「おぉ、流石カイトくん! ボクも結構近い意見かも……これとか、これとか、いいかな~って思ってたんだ」
「ああ、確かにそのふたつは美味しさって言うと試飲した中でトップレベルだと思う。ベビーカステラとの相性もよさそうな気がしたし、意見が合ってるならその辺りがいいんじゃないかな?」
「うんうん。なにせ、ベビーカステラ愛好会の主力であるボクとカイトくんがどっちも選んだコーヒーだし、このふたつは間違いないね!」
入った覚えのない謎の愛好会の主力にするのは止めていただきたい……アインさんも俺が知らないうちにメイドアドバイザーとか訳の分からない地位を与えてたし、やっぱ主従で似るんだろうか……。
「ありがとう、カイトくん! 参考になったよ!」
「役に立てたならよかったけど……さすがに一口ずつとはいえ、多かったなぁ」
「確かにちょっと種類が多かったかも……いろいろ作り替えられるのが楽しくて、作りすぎちゃってたね」
「まぁ、クロはベビーカステラの事となると、暴走するからなぁ……」
「え? そ、そんなことはないんじゃない……かな? ちょっと、その、ベビーカステラのこととなると熱くなっちゃうことも、あるかもしれないかなぁぐらい……ってことじゃ……だめ?」
「本人でさえ自信なさげなレベルなら、諦めて認めなさい」
「うぐっ……はい」
というか、ベビーカステラのこととなると暴走気味になってるって自覚はあったのか……テンションが上がってブレーキが効かなくなるだけで、エデンさんとかアインさんと違って反省はしてるっぽい。これまでの様子を見る限り、その反省が次に生かされることは……ない気がするが……。
「まぁ、それでもクロの暴走なんてエデンさんと比べれば可愛いもんだけどな」
「カイトくん、カイトくん、そこと比較されるのは流石にちょっとショックなんだけど……えと……あ~そうだ、思い出した! カイトくんと一緒に食べようと思って持ってきたお菓子があるんだった!」
「……形勢不利と見て話を逸らしたな」
「ソ、ソンナコトナイヨ」
暴走している自覚が本人にある以上、このままこの話題を続けてもクロにとっては不利……というかほぼ勝ち目がない状態だからか、誤魔化すように話題を切り替えた。
たぶん、他の相手にはそうそう見せないだろう隙のある姿を見て、俺は思わず苦笑する。やっぱりクロの暴走は可愛いレベルである。なんだかんだで付き合ってても楽しいし……。
「まぁ、いいや……それで、なにを持ってきたの?」
「じゃ~ん! これだよ!」
「これは……陶磁器に入った、プリンか?」
「そうだよ。アルクレシア帝国の東にある都市に小さな店があってね。基本的には陶磁器を取り扱う店なんだけど、時々自家製プリンを専用に作った陶磁器に入れて販売しててね。知る人ぞ知る美味しいプリンって感じかな?」
「へぇ、容器もお洒落だし、美味しそうだ」
食べ歩きが趣味のクロは、時々こうして気に入ったお菓子なんかも持ってきてくれることがある。さすがに食べ歩きガイドを何冊も書いてるだけあって、クロのチョイスに外れはなく買ってきてくれるものは毎回非常に美味しい。
「カスタードとチョコレートがあるけど、カイトくんどっちがいい?」
「う~ん。ここはやっぱ基本のカスタードかな」
「じゃ、ボクはチョコレートだね。はい、これがスプーンだよ」
「あ、スプーンも陶磁器でセットになってるのか……お洒落でいいな」
スプーンを受け取ってさっそく一口食べてみると、やはりというか非常に美味しかった。高級プリンとかみたいに洗練された感じじゃなく、これぞ自家製プリンという感じの素朴で優しい味わいが素晴らしい。
「カイトくん、チョコも食べてみてよ。はい、あ~ん」
「ありがと……うん。チョコも美味しいな……クロも、カスタード食べる?」
「あ~ん……うん、美味しい! えへへ、カイトくんと一緒に食べてると、食べ歩きした時より美味しく感じるから不思議だね」
そういってニコニコと嬉しそうに笑うクロを見て、俺も思わず笑みをこぼす。そして、先程のように時折互いの食べさせ合いつつ、プリンを堪能した。
シリアス先輩「……コーヒーの話と思ってたら、唐突にいちゃつきだして、油断してるとこに不意打ちでビンタされた気分……」
???「……なんでこれまでさんざんやられといて、いまだに油断してるんですか……慢心クイーンっすか?」