相変わらずだなぁ
ファフニルさんに送ってもらう事30分、リグフォレシアの街並みが見えてきた。
以前訪れた時から数ヶ月しか経ってない筈なのに、どこか懐かしく感じるのは……やはり、宝樹祭は俺にとっても記憶に強く残るものだったからだろう。
本当に以前訪れた時は色々な事があった。ジークさんの両親であるレイジハルトさん、シルフィアさんとの出会い。
リリアさん、ルナマリアさん、ジークさんの過去にまつわる出来事……そして、ブラックベアーの襲撃により混乱する街の中で、生まれて初めて戦いというものを経験した。
う~ん、しかし、あのブラックベアーが……今は姿を変え、今となっては大切で可愛い従者になっているなんて、人生何が起こるか分からないものだ。
そして、襲い来るブラックベアーの群れを一蹴したアイシスさんの戦いは、俺は見る事は出来なかったが、思えばその時辺りからだろうか……俺の事を真剣に想ってくれるアイシスさんの好意を、嬉しく感じ始めたのは……
それから収穫祭での精霊達、そして界王リリウッドさんとの出会い……やっぱり宝樹祭は色々あったものだ。
そういえば、宝樹祭が終わった後からだったかな? ジークさんが時々手料理を振舞ってくれるようになったのは……ジークさんの料理はどれも家庭的で優しい味付けて、なんていうか凄く俺好みの味で、実はそれを密かに楽しみにしてたりする。
「……うん? どうかしましたか?」
「いえ、ごく最近の事なのに……凄く久々って気がするなぁって」
「確かに、そうですね。宝樹祭に来た日から、私も、カイトさんも随分変わりましたね」
「え? 俺変わってますか?」
「……ええ、以前より、ずっと頼もしくなっています」
「あ、ありがとうございます」
穏やかな微笑みと共に告げられる、嫌味のない賞賛の言葉を聞いて少し気恥ずかしくなり、やや慌てつつ視線を窓から見える景色に移した。
正直100メートルを軽く超えるファフニルさんの体躯で、どうやって降りるのかと思ったが……何と客車部分だけ、ファフニルさんの魔法によりゆっくりと降下してリグフォレシアの入り口前に降り立った。
いや、本当に良かったよ……これ街中で降ろされなくて……空から豪華な客車と共に現れるとかの状況になったら、恥ずかしくて出歩けない所だった。
そんな事を考えつつ、ジークさんと共に客車から降りてファフニルさんにお礼を告げると、ファフニルさんは丁重に頭を下げて戻っていった。
その雄大な羽ばたきを少し見送った後で、改めてリグフォレシアの街に向かう。
リグフォレシアの街を囲む木造りの壁は、以前見た時より遥かに大きくなっていて、まるで木の城壁と言えるほどに変わっていた。
そして入り口らしき場所の前には、重厚な装備を身に纏った門番が居る。
「っ!? これは、ミヤマ様ではありませんか!」
「……へ?」
「お会いできて光栄です」
「えっと、俺の事、知ってるんですか?」
門番らしいキリッとした顔立ちの女性は、俺の姿を見ると素早く片膝をついて頭を下げる……え? これどういう状況? 見覚えの無い人……そもそも耳を見た感じエルフ族じゃないっぽいけど、誰なんだろう?
「我々は界王様の眷族です」
「あっ、そうなんですか……」
「はい。界王様より、ミヤマ様がいらっしゃった際には丁重に対応するようにと仰せつかっております」
「……」
あれ? なんだこれ? ちょっと前にもこんな展開見たぞ。
「界王様は、ミヤマ様には言葉では言い尽くせぬ程の感謝があると仰っていました。ミヤマ様の言葉は、全てに優先しろと言われております」
「そ、そうですか……」
「……カイトさん、そろそろ世界を支配できるんじゃないですか? 国でも作りますか?」
「作りません」
どうも六王の方々は、クロの件で俺に感謝してくれてるみたいで、自分達の配下に対して俺を丁重に扱うように厳命しているらしい。
なんというか、ありがたい事ではあるが……物凄く落ち着かない!?
マグナウェルさんにリリウッドさん……それにアリスに至っては、それ以前から部下達に俺に絶対服従しろとか厳命出してたし……本当に俺はどうすればいいんだ……
出だし早々に疲れる事態に遭遇したが、何とかリグフォレシアの街に入り……ジークさんと揃って首を傾げた。
「……あれ? レイさんとフィアさんが迎えに来てくれてる筈じゃ……」
「おかしいですね。ハミングバードでちゃんと伝えておいたんですが……」
そう実はファフニルさんに送ってもらう事が決まった際に、レイさんとフィアさんにはハミングバードで到着時間を送っておいた。
二人は迎えに来てくれるという事で、門を入ったところで待っていると返事が来た筈だったが……居ない。
もしかしたら、予定より早く着いた事もあって身支度が間に合わずに遅れているのかもしれないと思い、ジークさんとその場で二人を待とうとした時……聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「どど、どうするの!? まだ登場の打ち合わせが……」
「くっ、早すぎる……どうする? フィア、やはりここはスプリットクロスで……」
「駄目よ、それは前にやったわ……やっぱりサイドスウェイとかじゃないと」
「いや、しかしサイドスウェイは派手さに欠ける……ミヤマくんを驚かせるには……アルティメットスクリームを出すしかない!」
「だ、駄目よレイ! アレはまだ、一度も成功していないのよ!!」
……正直俺は今、かつてないほどいたたまれない気持ちになっている。
自分よりはるか年上であろう夫婦が、建物の影に隠れどうやって登場するかを真剣に相談している様子を見た時、一体どんな顔をすればいいのか分からない。
ジークさんも自分の両親の姿を見て、恥ずかしそうに顔を赤くして肩をプルプルと震わせている。
「失敗を恐れていては、躍進は無い……私は、いつまでも挑戦者でいたいんだよ」
「……レイ、素敵よ」
「フィア、付いて来てくれるか?」
「ええ、勿論よ! 一緒に行きましょう!!」
「……ならば、今から私が冥府に送ってあげますよ」
「「……え?」」
続けられる身内の醜態……というか茶番劇に、ジークさんの我慢が限界に達したのか、ゆっくりと拳を握りしめながら二人に声をかける。
するとレイさんとフィアさんは、ギギっと音がしそうな動きでこちらを向き、ジークさんを見て顔を青く染めた。
「じ、ジーク!? いつの間に!?」
「……黙って見ていれば、カイトさんの前で身内の恥を延々と……あれ程真面目にして下さいとお願いしておいたのに……」
「お、落ち着いて、ジークちゃん!? つ、つかみは大切なのよ!!」
「そ、そそ、その通りだぞジーク……お父さん達は、純粋な心を忘れない大人を目指してるんだ! 心はいつまでも子供なんだ!」
「……遺言はそれだけですか?」
「「え? ちょっ、まっ――ぎゃあぁぁぁぁぁ!?」」
そして、修羅と化したジークさんが二人に襲いかかり、リグフォレシアの街に悲惨な叫び声が木霊した。
「……あの御二方、中々イイものを持ってますね……磨けば光りそうです」
「磨かんでいい……」
「あっ、そうそう! カイトさん! アリスちゃんへのお土産なら、名産のフルーツスティックがお勧めですよ!」
「お土産もなにも、お前ここにいるだろうが……」
レイさんとフィアさんが、ジークさんによりボコボコにされているのを見ていると、いつの間にか現れたアリスがいつもの調子で告げ、俺は呆れながら言葉を返す。
「いや~それが、この前ちょっとすっちゃいまして、実は1Rも――はっ!? しまっ!?」
「……ちょっと、来い。話がある」
「あ、ちょっ!? か、カイトさん!? ま、待って、今のは……ぎにゃあぁぁぁぁ!? いだっ! いだだっ!? 耳引っ張っちゃらめぇぇぇ!!」
どうやらこっちはこっちでやる事が出来たみたいだ。
とりあえずあっちの親子喧嘩……もとい、ジークさんの一方的な折檻が終わるまで、この馬鹿の性根を叩き直しておこう。
拝啓、母さん、父さん――懐かしいリグフォレシアの街にやってきて、そこでさっそく精神的に疲れる状況に遭遇したよ。しかし、まぁ、なんというか……レイさんもフィアさんも――相変わらずだなぁ。
シリアス先輩「がふっ!?」