イルネスの相談⑥
思いを伝えあって正式に恋人となった俺とイルネスさんではあるが、だからと言って現状が即座に変化したりするわけでもない。
元々一緒にワインを飲んでいたわけだし、相談事が解決したのでこの先は雑談しつつワインを楽しむ感じになるだろうか?
「カイト様ぁ、せっかくですし~隣に座っても構いませんかぁ?」
「あ、はい。もちろん」
「くひひ、では~失礼しますぅ」
そんな風に考えていると、イルネスさんは隣に座ることを提案してきた。現在はテーブルを挟んで向かい合うような形だし、座っているのは横長のソファーなので問題ない。
俺が了承するとイルネスさんはワイングラスを持って立ち上がり、テーブルを迂回して俺の右隣りにスッと座った……距離がめちゃくちゃ近い。肩が触れ合うぐらい近く……いや、でも、恋人ならこのぐらいの距離感でもおかしくはないか。
「カイト様ぁ、どうぞぉ」
「あ、ありがとうございます」
ワインのおわかりを注いでくれるイルネスさんにお礼を言うが、なんというか変にドキドキする。やっぱり雰囲気かなぁ? 肩の触れ合うような距離で恋人とワインを静かに飲む。さらにここは豪華客船の一室となかなかにアダルティな感じというか……まぁ、少なくとも普段はそうそうないシチュエーションである。
イルネスさんのワンピースもどこかドレスっぽい雰囲気があるし、イルネスさん自身が大人っぽい雰囲気を持っていることもあってあんまり経験したことが無い空気感である。
そんな風に思っていると、イルネスさんが何も言わずにそっと俺にもたれかかってきた。負担に感じない程度のかすかな重みとぬくもり、フワリと漂ってくるシャンプー香り、なんかすっごくドキドキする。
「……不思議なものですねぇ。関係性が少し変わるだけでぇ、認識もかなり変わってくる気がしますねぇ。こうしていると~幸せですがぁ、少々緊張もしますねぇ」
「その気持ちは凄くわかります。というか、恋人になったばっかりってこともあって結構意識しちゃいますね。ただイルネスさんは凄く落ち着いてる雰囲気で、全然緊張してるようには見えませんけどね」
「そんなことは~ありませんよぉ。こう見えて~とてもドキドキしてますぅ。こんなに~胸が高鳴るのはぁ、本当に初めての経験ですねぇ……確かめてみますかぁ?」
「え? あ、えっと……」
「くひひ、冗談ですよぉ……いまのところはぁ」
あ、あれぇ? なんだろうこの恋愛強者感……恋愛経験で言えば確実に俺の方が上のはずなのだが、この余裕溢れる雰囲気……強い。
確かに感応魔法ではイルネスさんから緊張しているような感情も伝わってくるのだが、態度や表情にまったく現れてないので気付きにくいというか、一見するとすごく余裕がありそうに見える。
結構アプローチも積極的というか、ごく自然に行ってくるのでこちらが手玉に取られているような感覚すらある。いや、もしかしたら単純に普段から落ち着いていて大人っぽいイルネスさんに対して、無意識にリードされる側というかリアクション待ちのような感じになっているのかもしれない。
となれば俺もなにか……このシチュエーションだと肩を抱くのが一番自然だと思うが、イルネスさんが着てるのって肩出てるワンピース……恋人になったばかりでいきなり素肌に触れるのは飛ばしすぎか? いやでも……。
少し悩みはしたが右手を動かしてそっとイルネスさんの肩を抱く。イルネスさんは一瞬だけピクッと反応をしたがそれだけであり、特に気にした様子もなく身を任せるように俺にもたれかかっていた。
「……えっと、嫌だったりはしませんか?」
「いいえ~むしろぉ、嬉しいですねぇ。ですが~急な事だったのでぇ、少し驚いて~気恥ずかしさも感じますねぇ。先程までよりもぉ、ドキドキしていますぅ」
……なるほど、驚いて恥ずかしがっていると……表情からは全然読み取れないというか、優し気に微笑んでいる顔からは余裕そうな雰囲気しか感じない。
シロさんみたいに表情が変わらないとかではないのだが、緊張や照れは表情に出にくいタイプなのかもしれない……感応魔法の方で感じ取ってみると、確かにさっきまでより緊張した感情が伝わってきた。
シリアス先輩「……ア、アダルティ……イチャラブ……」
マキナ「ダメージは大きそう。そろそろなんかあるかな? ……メープルシロップがいいなぁ、いまホットケーキの気分だから……」
シリアス先輩「いやなにリクエストしてきてんだコイツ!? 別に私が意識してそうなってるわけでもないから、メープルシロップなんて無理に決まってんだろうが!!」
マキナ「大丈夫、メープルシロップは出るよ……『私がそう決めた』から」
シリアス先輩「……悪魔じゃねぇかコイツ……てかそこまで欲しいなら自分で用意しろよぉぉぉ!!」