イルネスの相談⑤
俺の話を聞いて笑みを浮かべた後、イルネスさんは静かに目を閉じた。なんとなくではあるが、思考を纏めているというかそんな感じがする。
となると、いま話しかけるのは邪魔をしてしまうだけだろう。そう考えて俺は静かにワイングラスを傾け、イルネスさんの思考が終わるのを待つことにした。
そのまま少しの間……時間にして5分ほどだろうか、それぐらい経過したところでイルネスさんはゆっくりと目を開けて俺の方を見た。
いつもの焦点の合っていない目ではなく、しっかりと焦点を合わせておりその綺麗な瞳とどこか真剣な表情に思わず見とれてしまった。
「……私はぁ、難しく考えすぎていたのかもしれませんねぇ」
「難しく、ですか?」
「はいぃ。私にとって~カイト様に対する気持ちはぁ、過去数万年の生では感じたことが無かった特別なものだったのでぇ、その想いを言葉にするのならばぁ、同じように特別なものでなければならないと~そう思い込んでいましたぁ」
イルネスさんはフレアさんの話では、六王という制度が出来る前から魔界でそれなりに有名だったという話なので、少なくとも2万年以上は生きているのだろう。
そんなイルネスさんが初めて感じた気持ちというのは、なるほど確かに特別なものなのかもしれない。
「だから~ずっと迷っていましたぁ。どんな言葉を用いればぁ、この想いを伝えることができるのかとぉ……ですがぁ、カイト様に悩みを打ち明けて~話をするうちにぃ、それは間違いだったと気づきましたぁ」
「それはつまり、特別な言葉である必要はないって感じですかね?」
「はいぃ。難しく考えすぎず~シンプルでよかったんだと思いますぅ。過剰に飾らずとも~ただ思うまま素直にぃ、言葉にすることにしますぅ」
そこで一度言葉を区切り、イルネスさんは真っすぐに俺の目を見つめながら、優し気な微笑みと共に言葉を紡ぐ。
「……カイト様ぁ、私は~貴方をお慕いしていますぅ。貴方が好きで~心から愛していますぅ。だから~貴方の幸せな顔が見たいと考えぇ、貴方に尽くしたいと思ってぇ……そしてなにより~幸せに笑う貴方の傍でぇ、その幸せな気持ちを共有したいと~そう思いますぅ」
「……イルネスさん」
「好きだから~傍に居たいぃ。愛しているから~尽くしたいぃ……そんな~シンプルな答えで十分にぃ、私の気持ちは表現できましたぁ」
先程イルネスさんが言っていた通り、言葉を飾ったりはせずストレートな思い。だからこそ、イルネスさんの気持ちが本当に強く伝わってきて……なんというか、嬉しかった。
「イルネスさん、俺はこの世界に着てイルネスさんが専属に付いてくれて本当によかったと思います。いまでこそ、感応魔法が原因だと分かるんですけど……リリアさんの屋敷の人たちが俺に対してどう接していいか悩んでいたり、おっかなびっくりな感じで接してるのが雰囲気で分かって、仕方ないことだとは思いつつもなんとも言えない気分だった時期もありました。でも、イルネスさんからは全然そんな雰囲気を感じなくて……本当に安心しました」
いまでこそリリアさんの屋敷の人とはほぼ顔見知りで、人によっては一緒に買い物に行ったりと仲のいい人も多いが、最初の頃は本当に若干の居心地の悪さを感じていた。
それまで男子禁制と言っていい状態だった屋敷に男で、なおかつ異世界人という立場の俺にどう接していいかわからないという気持ちも理解できるし、俺の方も変に遠慮して……互いに遠慮し合ってるような感じになっていた。
ただ、ルナさんやジークさん、そしてなによりイルネスさんが居てくれたおかげでそれが強いストレスになったりすることは無かった。
「そういう意味でもイルネスさんには本当に感謝してますし、元々好意的な気持ちは持ってました。ただまぁ、なんというかイルネスさんは憧れの女性というか、優しく大人っぽい女性で、俺は恋愛的な意味では相手にされないだろうと心のどこかで思ってた部分もあって、今日の話にはびっくりしましたが……でも、素直に嬉しいです……って、すみません。俺の方がなんかごちゃごちゃいろいろと言っちゃいましたね」
「くひひ、私は~カイト様がぁ、一生懸命に私に想いを伝えようとしてくれて~すごく嬉しいですよぉ」
「あはは、ありがとうございます。でもやっぱ、ここはちゃんとシンプルに……俺もイルネスさんのことをひとりの女性として好きです。えっと、だから……改めてこれからもよろしくお願いします」
「くひひ、はいぃ。こちらこそ~これからもぉ、貴方の傍に居させてくださいぃ」
そう確かに相談の内容には驚いたし、すぐに考えを纏めて言葉で伝えてきた事にも驚いたけど……こうして想いを伝えあえて、本当によかったと……幸せそうに笑うイルネスさんを見て、そう思った。
シリアス先輩「……ッ!?」
マキナ「あ、白目むいてる……前回の話で、恋人同士になるのはまだ先かと油断したところに追撃されたからかな?」