イルネスの相談③
ごく当たり前の前置きのようにイルネスさんが告げた言葉は、俺にとっては完全に想定外であり衝撃的だった。一目惚れ? あ、あれ? おかしいな……相談って、もしかし恋愛関連の相談だったのか……い、いや、それにしても一目惚れしたっていう相手に直接相談というのは、ストロングスタイル過ぎる気も……。
あ、いや、待て、早とちりしちゃだめだ。もしかしたら最初は俺に一目惚れしたけど、内面を知って勘違いだと気づいたとかそういう……いや、それは普通にへこむし、イルネスさんがそんなことを言うとも思えない。
「カイト様に~一目惚れした私はぁ、お嬢様に頼んで~カイト様のぉ、専属に~していただきましたぁ。異世界に来たばかりでぇ、不安そうなカイト様を近くでサポートできれば~とぉ、そんな風に考えてですねぇ」
「そ、そそ、そうなんですね。い、いや、確かにイルネスさんが専属で付いてくれて本当に助かりました」
「くひひ、そう思っていただけるならぁ~嬉しいですよぉ」
ちょっ、ちょっと待ってほしい。まだ情報を処理しきれてないというか、頭が混乱してて話に付いて行くのが大変すぎる。
イルネスさんは大人っぽくて優しくて、落ち着いた余裕ある雰囲気で、小柄ながら素敵な大人の女性って雰囲気が強い人だった。好きか嫌いかで言えばもちろん好きだし、憧れの女性みたいな印象だったというか……その雰囲気の影響か、漠然とイルネスさんから見て子供と言っていいレベルの俺は、恋愛的な意味では相手にされていないだろうと無意識に考えていた気もする。
「私は~カイト様を愛していますぅ」
「ッ!?」
「その気持ちに関してはぁ、初めてカイト様を目にしたときからぁ、いまでも変わることなくぅ……いえ~むしろ以前より深く愛しているとぉ、自信をもって言えるのですがぁ……少し~当初とはぁ、私の内面的な部分で~変化が起こってきたように感じていますぅ」
い、イルネスさん、もの凄く大胆というかもうほぼ告白されているような状態で、俺は結構頭の中でアタフタとしているのだが、イルネスさんは落ち着いたままである。
言葉で表現するなら、俺を愛する気持ちに嘘偽りなどなく、それを口にすることを恥ずかしいとは思わないという感じだろうか? 自然な感じで愛してると言われたこちらはまったく落ち着かないが、少なくともイルネスさんにとって話の本題はここではないようだ。
とりあえず動揺は心の奥に押し込んで、いまはしっかり最後までイルネスさんの話を聞くことにしよう。
「その時はまだ~私の世界は単純なままでしたぁ。カイト様に出会ってぇ、愛を知ってぇ、世界が美しく見えるようになってはいましたがぁ、そこにある私の思考は~シンプルなままでしたぁ。カイト様に幸せでいてほしい~カイト様に笑顔でいてほしいとぉ、そう考えて~自分にできることをしてきたつもりですぅ」
実際イルネスさんはいつも献身的にサポートしてくれたし、困っていれば自然と助けてくれた。本当にイルネスさんにはたくさんお世話になってという自覚があるし、そこに愛情があったと聞くと照れくさくも嬉しいと感じられた。
「私は~観客でよかったはずなんですぅ。舞台に上がるカイト様を席から見る観客かぁ、或いは~カイト様の物語の隅に小さく描かれる脇役でよかったはずなんですぅ。そこに~なんの疑問もなかったですしぃ、幸せそうなカイト様を見ているだけでぇ、私の心は満たされていましたぁ。ああ~そういうと少し語弊がありますねぇ。いまも~幸せそうなカイト様を見ているだけでぇ、私の心は凄く満たされてぇ、幸せな気持ちになれますぅ。ただ~最近はぁ、そこに~私情が混ざり始めたように感じているんですぅ」
「……私情ですか? えっと、でもそれは混ざって当然のような?」
「はいぃ。確かに~普通ならその通りなのですがぁ、私は~そういった気持ち……欲望とでも表現しましょうかぁ? そんな気持ちを~いままでに抱いたことが無くてぇ、どうにも混乱していますぅ。見ているだけでよかったはずがぁ、自分も舞台に上がりたがっているようなぁ、そんな感覚とでも言いますか~自分で思う以上に己がわがままになっていてぇ、どうしたものかと困っていますぅ」
……なんとなくではあるが、イルネスさんの悩みを察することができた。順序が逆だったんじゃないかと、そう思う。
普通はまず相手に恋をして、親しくなって愛が芽生えてくるのだが……イルネスさんは最初に俺を愛して、あとになってから恋をしたのではないだろうか? いや、自分そんな風に考えるのは恥ずかしいが……考えとしては間違ってない気がする。
愛は与えるもので恋は求めるものという言葉もあるし、献身的で愛情深いイルネスさんは、恋心が芽生えて欲求のような感情が生まれたことに戸惑っているのだろう。
うん、ある程度は理解できた……でもそれやっぱ、その対象である俺に相談すべきじゃないと思うんだけど!? 俺は一体どう返せばいいんだ!?
シリアス先輩「かはっ!? フルスロットルで告白してるんだけど!! 相談に見せかけた告白なんだけど!? だ、大胆な告白は女の子の特権ってやつか……くっ、すでにダメージが過剰に……」
ドクターM「大丈夫? 我が子の話する?」
シリアス先輩「追い打ちかけるのは止めていただきたい」